ロータリーエンジンの特性は電動ユニットとの相性が抜群
2024年12月5日、日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員会は「2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー 実行委員会特別賞」にマツダ「e-SKYACTIV R-EV」を選定したことを発表した。マツダだけが量産化に成功したREを、発電機として使用するシリーズ方式のプラグインハイブリッド(PHEV)システムだ。
シリーズ方式を採用するPHEVは、最近では「EREV(Extended Range Electric Vehicle)」と呼ばれている。エンジンの出力は専ら発電に用いられ、バッテリー残量が少なくなれば駆動力(=HV走行)としても用いられる。さらに外部から充電することも可能だ。ゆえにPHEVの一種なのだが、REが直接走行に関与する割合いが既存のPHEVよりも少なく、かつ外部からの充電が可能という点で、よりEVの感覚に近い乗り物と言えるだろう。
e-SKYACTIV R-EVを搭載した「MX-30 ロータリーEV(MX-30 ROTARY-EV)」は、1個のローター(830cc)と高出力モーター/ジェネレーター、バッテリー(17.8kWh)を組み合わせたもの。エンジン本体は新設計だが、過去に培ってきたノウハウを活かしてさらに熱効率を磨き上げている。EV走行換算距離は107km(等価EVレンジ・国土交通省審査値)と、国産PHEVトップクラスの効率を実現している。日常づかいではEV走行、ロングドライブ時はロータリーエンジンで発電、さらにはエンジンとモーターによるハイブリッド走行をすることで(燃料がある限り)電欠の心配をせずに楽しむことができる。
REをコアにしたEREVの美点は、とにかくシステムがコンパクトでありコストパフォーマンスにも優れているところだ。EVほど大容量のバッテリーを必要とせず、ローター数や組み合わせるモーターの出力次第で、さまざまな車種・ボディタイプにフレキシブルに対応できる。
そもそも、REの特性は「モーターのように回る」と形容されたほどスムーズで振動が少ない。モーターとの相性は非常に良い。さらに燃料の種類に寛大であり、将来のCN(カーボンニュートラル)燃料にも難なく対応する。つまり、内燃機関搭載車とEVの橋渡し役ではなく、本格的なEVの時代が到来しても独自のポジションを確立して生き残る可能性が高いと言える。
<参考:MX-30車両価格レンジ>
・MX-30:293万5900円~340万6700円
・MX-30 EVモデル:466万9500円~521万1800円
・MX-30 ロータリーEV:435万6000円~494万2300円
2ローターEREVで北米のニーズを満たしスポーツカー復権も目指す
MX-30 ロータリーEVには、次の一手がある。それがモアパワーを求める北米市場のニーズに応える2ローター化だ。その先には新たなスポーツカーへの搭載も見込む。これについては米Automotive Newsに掲載されたマツダの毛籠勝弘CEOの単独インタビュー記事(12月4日付)が興味深い。
毛籠CEOは、「より多くの電力を生成し、とくにパワーへの渇望が強い北米市場のニーズに応えていく」と2ローター式EREVが開発中であることを認めている。さらに、2023年10月にジャパンモビリティショーで公開されコンセプトカー「アイコニックSP(ICONIC SP)」についても、「(発売時期は未定ながら)実現に向けて一歩一歩進めている」とコメントしている。アイコニックSPに関しては、すでにデザイン本部長の中山雅氏もその実現可能性に言及しており、マツダの「未来へのコミットメント」を象徴する電動スポーツカーとして実現すべく奮闘しているのは間違いなさそうだ。
まだ正式な開発プログラムとして承認されていないことが伺えるものの、2024年2月にはパワートレイン開発本部パワートレイン技術開発部のRE(ロータリーエンジン)開発グループを再結成して、新しい時代に適合したREの研究・開発をさらに強化。REを発電機用として継続的に進化させ、主要市場での規制対応やカーボンニュートラル燃料対応などの進化をすすめている。
昨今の中国メーカー勢は欧州の関税対策からPHEV、なかでもEREVの開発に力を入れている。また韓国のヒョンデやキアも欧米市場を重視して新たなEREVの開発を発表している。そんな状況下において独自技術で攻勢をかけようとしているマツダ。かつてはスポーツエンジンとして知られたREが、新たな時代の電動化を支えるコアユニットとして本格的な復活を遂げる日が近そうだ。