ステランティスのカルロス・タバレスCEO辞任の発表は、クリスマスに向けて気分も浮き立ち始める12月に入った矢先のことで関係者を驚かせましたが、波乱に満ちた2024年と自動車業界が直面している苦難を象徴しているようです。そのわずか2カ月前、ステランティスは米国市場の在庫圧縮による費用を理由に大幅な減益見通し(2桁だった営業利益率を5.5〜7.0%へ修正)を公表、タバレス氏はその責任を問われてか任期の切れる2026年初頭に円満に退任と発表されたばかりでした。それがなぜ急転直下の辞任に至ったのか、現地の報道などから探ってみます(写真はステランティス)

過激な目標に取締役会が反発

では今回、急転直下の辞任が決まった理由は何なのでしょう。ロイターは、タバレス氏が提示した業績回復プランやコスト削減目標があまりに過激だったためと内部情報筋の話として報じています。何%のコスト削減を意図したのかは不明ですが、おそらく5%以上の大胆なものだったと想像されます。

2024年の世界EV販売台数でテスラを抜くであろう中国BYDは、2025年度10%のコスト削減をサプライヤーに要請し、中国市場は「ノックアウトマッチ」に突入すると同社の副社長が通達したとのことです。中国で血みどろの殲滅戦を主導しているBYDならありそうなことです。一方、コスト管理で定評のあるトヨタは、毎年3%の削減を求めてくると聞いたことがあります。それも現在のように電動化やデジタル化の投資がかさみ、インフレによる原材料のコストアップで収益が圧迫されているサプライヤーには厳しすぎるでしょう。そうした環境下で、無理なコスト削減要求は持続可能ではありません。

タバレス氏は、レーシングドライバーとしての腕前にも定評があり、技術への洞察やクルマづくりへの情熱は広く認められているところです。しかし一方で、サプライヤーと共存共栄していく考えや、ディーラーをパートナーとして価格設定や販売施策を共に考えるという視点はどうやら不足していたようです。

CO2規制緩和の要求の支持を拒む頑な姿勢

もうひとつ、ロイターが解任の理由として報じたのは、欧州自動車工業会(ACEA)が欧州委員会に対し、2025年から厳しくなるCO2排出量規制を延期するよう要請していることへの支持を拒んだことです。

2035年にエンジン車の販売を原則禁止するEUは、2021年の119g/kmから2025年に93.6g/kmへ排出量の削減を定めており、これを達成できなければ1台あたり1グラム(CO2)につき95ユーロの罰金を課せられます。最近のEV販売の減速を受けて、ACEAはこの規制の実施を延期するようにEUに要望しています。ステランティスの取締役会は、同社もこの要求を支持するように促しましたが、タバレス氏はそれを拒んだというのです。

VWやフォード、メルセデスベンツなど多数のメーカーが罰金の対象になりそうで、EV販売の多い他社とグループを組むこと(プーリング)で対応しようとしているのを尻目に、オペル フロンテーラEVやシトロエン e-C3など2万〜3万ユーロの廉価なEVを間もなく発売するステランティスは、「規制対応の準備はできている」とタバレス氏は強気の発言をしてきました。

同社が2023年にACEAから脱退したことは群れることを嫌う自信家のタバレス氏らしい行動ですが、EV販売の先行きが見通せない中で、自社だけは大丈夫と強弁するタバレス氏のエキセントリックな態度に、ついに取締役会が見切りをつけたということでしょう。ステランティスは、タバレス氏の退任発表の数日後に、ACEAに再加入すると発表。ACEAもこれを歓迎する声明を出しています。

画像: ステランティス取締役会会長のジョン・エルカン氏(中央)。フィアットを創業したイタリアの名門財閥アニェッリ家の代表で、フェラーリの会長も務める。

ステランティス取締役会会長のジョン・エルカン氏(中央)。フィアットを創業したイタリアの名門財閥アニェッリ家の代表で、フェラーリの会長も務める。

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