2024年11月5日の米国大統領選挙の結果、ドナルド・トランプ氏が130年ぶりに2期目の防衛に一度失敗した後に大統領に返り咲くことになりました。選挙当日まで、鍵となるスウィングステートを含めて民主党候補のハリス副大統領との大接戦が予想されましたが、蓋を開ければ、ペンシルベニア州やミシガン州などかつて「青い壁(ブルーウオール)」と言われた民主党の牙城を含め7州全てで3ポイント前後の差をつけて勝利しました。隣国メキシコを含め外国からの輸入品に高関税をかける、EV購入支援策を廃止すると主張しているトランプ氏の第2次政権で米国はどのように変化するのでしょうか(タイトル写真は大統領選挙の勝利宣言に登壇したトランプ氏とメラニア夫人。Foxニュース配信動画より抜粋)

果たして一律10%の関税はあるのか?

経済的には、トランプ氏がかねてから発言している輸入品への関税アップやEVなどのグリーン政策の行方が焦点になりそうです。対中国の関税は、既にバイデン政権が中国製EVの関税を100%に引き上げ、半導体部品や太陽光パネルに50%、リチウムイオン電池や永久磁石にも25%の高関税を課しました。コロナ禍で必需品だった注射針やマスクなどの医療器具の関税も25〜100%に大幅に引き上げており、電気製品や日用品以外に新たに高関税を課せる品目は多くはなさそうです。しかも、中国からの輸入は近年減少し続けており、2023年には米国の輸入先第1位は中国からメキシコに入れ替わりました。

トランプ氏は、メキシコからの輸入品にも高関税をかけるとしていますが、果たしてそれが現実的なのかは議論があります。メキシコは年間350万台の自動車を生産してその約9割は輸出されており、内77%(230万台)は米国向けです。1990年代にNAFTA(北米自由貿易協定)が締結されて以来、GMやステランティス、フォードなどデトロイト3はメキシコでSUVやピックアップトラックを生産し米国に輸出し、その割合は米国販売台数の15%に達しています。

またトヨタ、日産、ホンダは年間20万台前後、マツダもCX-30など10万台程度のメキシコ生産車を米国で販売しています。第1次トランプ政権の2017年にUSMCA協定に形を変えましたが、30年存在している北米の非課税ルールを変更するのは容易ではありません。10%以上の関税をかければサプライチエーンが混乱する自動車業界の反発は必至で、非関税の基準(現地調達率等)を厳格化するなどしてこれ以上メキシコに製造業が流出することを抑えようとするかもしれません。また、日本からも2023年に170万台の完成車が米国に輸出されており、これへの増税を回避するには、前回の2019年交渉時のように米国産農産物の関税を下げるなどの見返りを要求されることはありそうです。

画像: 1964年操業のフォードメキシコ工場で生産されるEVのマスタング・マッハEは米国を含む37カ国に輸出される。

1964年操業のフォードメキシコ工場で生産されるEVのマスタング・マッハEは米国を含む37カ国に輸出される。

EV補助金は就任初日に廃棄される?

もう一つの関心事である温暖化ガス排出抑制やエネルギー・EV政策についてはどうでしょうか。これについては、安価なエネルギー供給の御旗の下で、バイデン政権が抑制していた新規の油田や天然ガスの採掘を促進し、再生可能エネルギーへの補助を減らしそうです。パリ条約からは2度目の脱退を表明するかもしれません。7,500ドルのEV購入補助金を含む総額50兆円規模のIRA法案は議会を経ないと変更できませんが、下院も共和党多数になればこれも可能でしょう。但し手続きに時間がかかるので、当面、リース車両にも適用され実質EVの8割が対象になっている補助金の適用基準を厳しくするなどで制限することはありそうです。

テスラのイーロン・マスク氏の政権入りが確実視されていますが、同社のEVの価格は既に全米の新車平均販売価格(4万8000ドル)を下回っており、マスク氏は補助金がなくなっても影響ない、むしろ競争には利すると発言しています。

もう一つ、IRA法下のEV関連投資への援助ですが、S&Pモビリティによれば、米国には既に2110億ドル、510カ所のEVや関連部品の生産工場の計画が進行中で、その84%はミシガン州など中西部のラストベルトや、テネシー州や南北カロライナ州など今回共和党が勝利した州に立地しています。これらの工場は135,000人の直接雇用を生むと見込まれ、これへの補助金や減税を中止することはないという見方が大勢です。最近のトランプ氏はEVを許容する発言が増えていますが、「遠くへ行けないクルマを押し付ける」バイデン政権の政策は破棄し、「EVも選べる。但し特別な補助はしない」という方針になるのではないでしょうか。

画像: トヨタが1390億ドルをかけてノースカロライナ州に建設中の車載バッテリー工場。2030年に年間30GWhの電池を生産し5000人を雇用する計画だ。

トヨタが1390億ドルをかけてノースカロライナ州に建設中の車載バッテリー工場。2030年に年間30GWhの電池を生産し5000人を雇用する計画だ。

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