メルセデスのEV販売はマイナス31%
メルセデス・ベンツ(乗用車)の第3四半期の営業利益は前年同期比で64%も減少し、利益率は4.7%にまで落ち込みました。第3四半期のEVの世界販売は42,544台(前年同期比−31%)とプラグインHEVの台数を下回り、販売に占めるシェアも12.1%から8.4%に低下しました。最上級EVモデルEQSのフロントデザインをエンジン車風に変更するなど改良を4月に施しましたが販売は改善しておらず、特に中国ではEVの在庫処理に多額の支援金を投入したことが、大幅減益となった理由の一つです。アナリストとの会見で最高財務責任者(CFO)のハラルド・ヴィルヘルム氏は、「BEVの需要はおよそ予想していたよりもはるかに低いレベルに低迷している」「土砂降りの状況だ」と目算が外れたことを語りました。
さらにEVだけでなく、SクラスやGLSなど「トップエンド」モデルの販売台数も今年1〜9月で前年同期比−19%と減少しており、メルセデスが2026年までの中期目標に掲げていたトップエンドの販売比率を2019年比で60%増加させる計画に暗雲が垂れ込めています。第4四半期の営業利益率も7%前後にとどまる見込みで、通期でも7.5〜8.5%と昨年の12.6%を下回ります。
明るい材料としては、プラグインHEVの販売が増加していることやドイツの高速道路でSクラスなどに搭載するADAS「ドライブパイロット」でレベル3の自動運転が95km/hまで可能になることなどが挙げられ、さらに来年中には、コンパクトセダンのCLAなどエントリーモデル群が登場します。加えて人気SUVのGLCのモデルチェンジも控えており、これらには最新のMB.OSや「レベル2+」機能が搭載されるなど、2026年以降の業績回復には期待がかかります。ただし、世界販売の3割を占める中国市場の販売が好転することは望み薄で、欧州市場も成長は期待できないことから当面厳しい状況が続きそうです。
ポルシェタイカンの販売は50%減
メルセデスと同日に第3四半期の決算を発表したポルシェも、売上高(286億ユーロ。前年同期比−7%)、販売台数(226,026台 同−7%)ともにマイナスで、営業利益(40.4億ユーロ)は前年同期を−29%下回りました。アナリストと電話会見したCFOのルッツ・メシュケ氏は、今年は5モデルが新型にチェンジする切り替えの年であり、昨年末モデルチェンジしたカイエンは好調で、第4四半期にGTSのデリバリーが始まるスポーツカー911も期待できると語りましたが、アナリストの質問は1〜9月で14,042 台(前年同期比−50%)と販売台数を大きく落としたEVのタイカンや、欧州ではEVのみとなった新型マカンの販売動向(1〜9月−20%)などに集中しました。
特に、タイカンは4月の北京モーターショーで100万元を切るエントリーモデルを発表してテコ入れしたにも関わらず、9月の中国の販売台数はわずか23台と独ハンデルスブラット紙は報じており、「高級EV市場はどのブランドも大苦戦している」とメシュケCFOも認めました。一方、中国ブランドでは、携帯電話や家電メーカーであるシャオミ(Xiaomi)が今春発売したスポーツセダンのSU7が、性能はタイカンと同等で価格は4分の1の21万9900元(440万円)からで月販1万台以上売れており、今年12万台の目標は達成しそうです。
4月の北京モーターショーで以前自動車メディアの編集者だった30代の起業家から聞いたのは、「EVに40万元(800万円)以上出す気がしない」「EVでは中国ブランド車の方が輸入ブランドよりコスパが高いと消費者は思っている」という声でした。一方で、フォードの高級ブランド「リンカーン」のV6 3.5Lターボエンジンを搭載した全長5.6mの大型SUV「ナビゲーター」は100万元(2000万円)を優に超える価格で売れており、EVの価格で太刀打ちできない高級輸入ブランドは、今後ニッチになる高額なエンジン車しか残らないのではないかと思うほどです。ポルシェの中国での1〜9月の販売は43,280 台(−29%)で、メシュケCFOは、現在の年10万台の販売を想定した中国の輸入・販売ネットワークは、「大幅に縮小せざるを得ない」と回答しました。
ポルシェは、2026年までに営業利益率20%という目標がありますが、昨年18%だったものが今期は14〜15%まで低下する見込みで、販売台数が伸び悩む中でコストダウンだけで目標の利益率を達成できるのか、もっと根本的な構造改革が必要ではという厳しい質問が飛んでいました。