2024年9月27日、ソニー・ホンダモビリティ(以下SHM)は2025年より日米で発売するEV、アフィーラ(AFEELA)の充電規格にNACSを採用すると発表した。NACS規格の充電ポートを標準装備する日本市場向けEVは、テスラ車以外では初となる。

北米は当然の流れだが日本仕様にもNACSを採用するとは

2023年5月にフォードがテスラの充電規格「NACS(North American Charging Standard)」の採用を表明して以降、日米欧韓の自動車メーカーが自社の米国仕様車へNACS規格の充電ポート採用を雪崩を打ったように発表した。これにより、テスラが独自展開していた急速充電器「スーパーチャージャー」のネットワークが、アダプターを介さずに他メーカー車でも利用できるようになる。

NACS採用を表明した自動車メーカーはその理由として、テスラスーパーチャージャーの信頼性(故障の少なさ)、性能(V3の最大出力は250kW)、そして利便性の高さ(北米エリアで1万7000口以上:2024年8月末)を挙げているが、北米エリアの充電インフラはテスラに軍配を上げた形だ。

画像: フォードは他社に先駆け2024年2月末よりNACS変換アダプターの無料提供を開始した。

フォードは他社に先駆け2024年2月末よりNACS変換アダプターの無料提供を開始した。

そんな現地の状況ゆえ、SHMが2025年前半に発表(納車開始は2026年から)するAFEELAがNACSを採用してもだれも驚かなかっただろう(そもそもAFEELAは北米生産車だ)。また、ホンダは、BMW、メルセデス・ベンツ、GM、ステランティス、ヒョンデ、キア、そしてトヨタ/レクサスも加わったの8社(グループ)が出資する急速充電ネットワーク企業「アイオナ(IONNA)」も立ち上げている。こちらはNACSとCCS(Combined Charging System:従来の北米規格)ともに利用可能ないわゆるデュアルガン方式の急速充電器を設置する。

画像: ヒョンデのアイオニック5北米仕様は9月3日発表の2025年モデルよりNACS充電ポートが標準装備になった。

ヒョンデのアイオニック5北米仕様は9月3日発表の2025年モデルよりNACS充電ポートが標準装備になった。

国内の150kW以上急速充電器は90%超がスーパーチャージャー

しかし、CHAdeMO規格が普及している日本国内でNACS仕様を導入するとなれば話は別だ。最近、日本でもCHAdeMO とNACS双方に対応したデュアルガン方式の急速充電器も登場しているが、それはテスラ車オーナーの利便性に考慮したもので、変換アダプターを使用する手間を省くためのものだ。テスラ車は日本仕様もNACSが標準搭載されており、CHAdeMO仕様の急速充電器を使用する際にはアダプターを介す必要がある。

画像: 最新のスーパーチャージャーV4とAFEELAプロトタイプ。V4はようやく日本でも設置が始まったばかり。出力はV3と同じ250kWだが充電ケーブルが延長され、テスラ車以外の使い勝手にも考慮されている。

最新のスーパーチャージャーV4とAFEELAプロトタイプ。V4はようやく日本でも設置が始まったばかり。出力はV3と同じ250kWだが充電ケーブルが延長され、テスラ車以外の使い勝手にも考慮されている。

もっとも、すでに国内で150kW以上の出力を備えた急速充電器の90%がスーパーチャージャーである。主力機である「V3」やその改良進化型で現在日本でも設置が始まった「V4」は250kWの超高出力機であり、とくにV4は今後さらに出力が上がると言われている。車両側の受電能力次第ではあるものの、15分前後でSOC20→80%まで充電できるのであれば、テスラ車オーナー以外でもスーパーチャージャーを利用するメリットは大きい。

画像: CHAdeMO規格はAC普通充電(左側)とDC急速充電でポート形状が異なる。NACSはACとDCで共用する。

CHAdeMO規格はAC普通充電(左側)とDC急速充電でポート形状が異なる。NACSはACとDCで共用する。

一方、CHAdeMOも350kW級の最高出力を発揮する急速充電器が開発されており、当分のあいだは主流である状況に変化はないとも言われる。

SHMの水野泰秀代表取締役会長兼CEOは、「SMHは運転の楽しさと楽しい車内体験のために、人を軸に価値創造を追求しています。充電においてもお客様の利便性を最優先に考え、NACSの採用を決定しました。NACSとAFEELAに最新かつ高度なテクノロジーを搭載したV3およびV4スーパーチャージャーを採用する機会を提供してくださったテスラに心から感謝します」と、今回の決定はあくまでユーザーの利便性向上であると語る。

画像: CHAdeMOとNACSに対応したデュアルガン方式の急速充電器も登場している。これはDMM EV CHARGEの急速充電器。

CHAdeMOとNACSに対応したデュアルガン方式の急速充電器も登場している。これはDMM EV CHARGEの急速充電器。

CHAdeMO優位の状況はおそらく当分のあいだは変わらない。しかし、今後輸入EVやPHEVが増加すれば、CHAdeMOへの変更を避けたいメーカーも現れる可能性もある。また国内メーカーからも、今後予想される輸出車両の増加に伴い、充電規格の簡素化を求める声も出るかもしれない。上述のとおり、いきなりNACSが主流になるとは考え辛いが、CHAdeMOとNACS/スーパーチャージャーの“せめぎあい”がしばらく続くとみていいのではないだろうか。

ホンダ0シリーズSALOONにもNACS採用の可能性?

最後に気になる話題をひとつ。ホンダが2026年からグローバルで市場投入を予定している「Honda 0シリーズ」の動向だ。なかでも実はこの新シリーズのEV車台および車載OSは、SHMのAFEELAと共用することは日本経済新聞など複数のメディアが報じている(2024年7月)。つまり、国内で設計/開発されているものの、生産は北米オハイオ工場に新設されたEV専用ラインでAFEELAとともに行われるのだ。違いはデザイン、パッケージング、そして車載OS上に重なるソフトウェア。バッテリー(LGES)を始め、サプライヤーは共通になるだろう。

画像: ホンダが2026年に北米を皮切りに投入を予定している「0シリーズSALOON」のコンセプトモデル。従来のクルマの概念を超えた本格SDVの第一弾だ。

ホンダが2026年に北米を皮切りに投入を予定している「0シリーズSALOON」のコンセプトモデル。従来のクルマの概念を超えた本格SDVの第一弾だ。

また、2025年末から生産が始まるアキュラブランドの新型スポーツSUV(「Acura Perfomance EV Concept」として今年8月にコンセプトモデルを公開済み)も、AFEELA、0シリーズSALOONとアーキテクチャーを共有している。時系列でみれば、まず2025年末にアキュラ、続いて2026年前半からAFEELAと0シリーズSALOONの生産が始まるというイメージだ。

北米専用車のアキュラはもちろんNACSだが、AFEELAが日本仕様もNACSと発表したことで、0シリーズSALOONの日本仕様もNACSを採用する可能性が俄然高まったのではないか。しかも、この3車は本格的なSDVであり、車両価格はかなり高くなりそうだ。それを少しでも抑えるために最大公約数的な考え方をすると、すでに北米以外でも構築が進んでいるスーパーチャージャーのネットワークに乗っかるのが、SHMとホンダはもとよりユーザーにとってもメリットが大きい。

画像: スーパーチャージャーのネットワークは、2024年9月時点ですでに全世界で6万基を超えており日々増えている。(写真は2024年6月に開催されたテスラの年次株主総会の映像資料より)

スーパーチャージャーのネットワークは、2024年9月時点ですでに全世界で6万基を超えており日々増えている。(写真は2024年6月に開催されたテスラの年次株主総会の映像資料より)

もちろん、これはあくまで状況証拠をもとに予想しているだけだから実際にそうなるかどうか確信はない。とは言え、現在はNACS未導入の国や地域でも、今後はどうなるかわからないのも事実。CHAdeMOとNACSでせめぎあう日本はもとより、各国/地域の急速充電規格の動向には今後も注視しておく必要がある。

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