前回はアメリカのGMとフォードの2024年上半期決算発表の内容を見ましたが、今回はドイツのプレミアムカーの両雄メルセデス・ベンツとBMWの上半期決算発表からわかることを紹介します。コロナ禍や半導体不足から回復して好調だった前年と比べると市場競争は激化し、電動化やデジタル化への投資が嵩む厳しい経営環境下で、ドイツ高級車のライバルの明暗は分かれているようです。(写真は、今年4月に部分改良されたメルセデス・ベンツEQS。バッテリーを118kWhに増強して航続距離を799kmに伸ばし、評判の芳しくなかった卵形のデザインを修正すべくフロントグリルを一新しエンブレムをボンネット上に据えた)

全ての主要市場で販売台数を落としたメルセデス

まずメルセデス・ベンツ(乗用車)は販売台数、売上高ともに前年同期比5%以上のマイナスとなって厳しい状況です。欧州、中国、米国の主要市場全てで販売台数を落としており、特に本国ドイツは−16%、最大市場の中国でも−8.8%と苦戦が目立ちます。営業利益(EBIT)も−35%となっており、特にトップエンドモデル群の販売が−22.5%でモデルミックスの悪化が響いています。SクラスやEQSを生産する最新鋭の独ジンデルフィンゲン工場の生産を秋から一直に減らすという事態となっており、2026年までにトップエンドモデルの比率を60%増加(2019年比)するという目標を達成できるかは、フロントデザインをエンジン(ICE)車風に手直ししたEQSや来年部分改良予定のSクラスが勢いを取り戻し、エレクトリックGクラスやAMGモデルをさらに拡販できるかにかかっています。

画像: メルセデスはエントリーモデルの販売を減らし、2026年までにトップエンドモデルを6割増販する目標を立てているがその道は険しそうだ。(同社Q2決算発表プレゼン資料より)

メルセデスはエントリーモデルの販売を減らし、2026年までにトップエンドモデルを6割増販する目標を立てているがその道は険しそうだ。(同社Q2決算発表プレゼン資料より)

アナリストとの質疑応答では、知的で温厚なオーラ・ケレニウスCEOが、時に市場競争の厳しさや不確定要素について「不合理な(irrational)」という言葉を口にするなど、ラグジュアリーブランドとして長年君臨してきたメルセデス・ベンツでさえ、目下の厳しい市場環境と変革の渦中で困難に直面していることを窺わせました。

同社は、2030年までに新車販売を全てEVに転換するという目標を今年の初めに取り下げ、市場が要求する限りICEモデルも刷新し続けるという方針に転換しており、今後もMB.OSなどのソフトウェアの進化をICEにも反映していくと表明しました。また2025年からは、次世代のMMA(メルセデスベンツ・モジュラー・アーキテクチャ)を採用したコンパクトクラスのEVであるCLA(セダン)や同SUVが導入されますが、MMAは性能を大幅に向上させたEVとICE車のどちらにも対応しています。さらにその後、MB.EAと呼ばれる次世代中型EVプラットフォーム上に設計されたGLAやCクラスが登場し、この先2〜3年で中核製品が一新されていく予定です。

世界販売比率35%の中国市場で踏みとどまれるか

オンライン会見では、中国市場に関して「価格競争に巻き込まれずに耐えられるか」「他の輸入車メーカーのように構造的な事業再編が必要ではないか」といった質問が繰り返されましたが、ケレニウス氏は、中国市場全体について以下の3つの見方を示しました。
1.激烈な技術転換の競争(EV化、デジタル化)の渦中にあるが、これには食らいついていかねばならない。
2.経済は特に不動産市場の不況によって消費者の購買意欲が下がっており、近い将来好転するとは思えない。価格と販売台数のバランスをとりながら、値下げ競争からは一線を画したい。
3.中国には100社を超えるEVメーカーがあるが、その9割以上は赤字だ。これらが淘汰されるのにどのくらい時間がかかるかまだ分からない。合弁事業の再編といった構造的な対応をまだ決断できる段階ではない。

さらに、中国のEQSの顧客の「唯一クルマ酔いしないEVだから購入した」というコメントを紹介しつつ、ドライブトレインとシャシーのバランスなどメルセデス・ベンツが培ってきた技術や商品力が必ず理解されるはずだ、とマーケットの防衛には自信を示しました。

画像: スウェーデン人のケレニウス氏は、アナリストとの英語のQ&Aの回答も澱みなく流暢であり、メルセデスCEOならではの品格を感じさせる。

スウェーデン人のケレニウス氏は、アナリストとの英語のQ&Aの回答も澱みなく流暢であり、メルセデスCEOならではの品格を感じさせる。

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