前回はアメリカのGMとフォードの2024年上半期決算発表の内容を見ましたが、今回はドイツのプレミアムカーの両雄メルセデス・ベンツとBMWの上半期決算発表からわかることを紹介します。コロナ禍や半導体不足から回復して好調だった前年と比べると市場競争は激化し、電動化やデジタル化への投資が嵩む厳しい経営環境下で、ドイツ高級車のライバルの明暗は分かれているようです。(写真は、今年4月に部分改良されたメルセデス・ベンツEQS。バッテリーを118kWhに増強して航続距離を799kmに伸ばし、評判の芳しくなかった卵形のデザインを修正すべくフロントグリルを一新しエンブレムをボンネット上に据えた)

e-fuelや低炭素燃料を後押し。中国製EVの関税には反対

トヨタともZ4/スープラの共同開発や水素燃料電池車で協力関係にあるBMWですが、ツィプセ氏は、かねてよりEUの決めた2035年のICE車販売禁止を批判しており、今回の決算会見でも冒頭のスピーチの中でこの主張を繰り返しました。さらに、「EUはe-fuelを認めることでICE車禁止の偽りの逃げ場を作っているが、もっと真剣にe-fuelやE25(エタノール25%混合ガソリン)、HVO100(※1)などの開発を進め、新車だけでなく2億5000万台の欧州の既存の自動車が排出するCO2を削減する手段を進めるべき」と低カーボン燃料の普及の必要性を強調しました。※1:水素化植物油(HVO)は、再生可能な廃棄物の脂質を処理することで化石資源なしで生産できるディーゼルのような燃料を指す。

また、EUの発動した中国製EVへの追加課税にも改めて反対を表明し、「EVのサプライチェーンを欧州域内に構築するにもバッテリーの材料は中国に頼らざるを得ず、最大37.5%もの追加関税は報復措置を呼び、自由貿易を阻害して結果的に欧州のEV普及を遅らせる」「BMWもMINIのEVなどを輸入しており、関税はせいぜい10〜15%、理想的にはもっと下げるべきだ」と主張しました。なお最近の報道によると、EUはテスラの関税を9%に、ボルボやポールスターを輸入する吉利汽車やBMWの輸入EVの追加関税もそれぞれ19%と21.3%に若干下げる見込みです。実際、追加関税の仮施行を受けて、6〜7月の欧州市場での中国製EVの販売シェアは減少しています。

画像: 4月の北京モーターショーで中国で生産し、欧州に輸出を開始したMINIエースマン(EV)を発表するオリバー・ツィプセCEO。

4月の北京モーターショーで中国で生産し、欧州に輸出を開始したMINIエースマン(EV)を発表するオリバー・ツィプセCEO。

変革へのハイレベルの投資と株主還元で利益は圧迫

ドイツの自動車産業については、VWグループも、研究開発費や設備投資が売上高の14%を超えて利益を圧迫しており、EVについても、VWのI.D.シリーズの販売減速、アウディが発売して間もないQ8 e-tronを生産するブリュッセル工場の閉鎖を検討するなど厳しい状況が続いています。2021年には世界で6箇所建設するとしたバッテリー生産工場も当面ドイツ、スペイン、カナダの3箇所で十分と軌道修正するなど、EVへの大胆なシフトを想定した戦略の見直しに取りかかっています。

世界最大の中国市場の減速と構造変化(中国メーカーの躍進)、欧米の需要の頭打ち、EVやデジタル化への投資の負担など、どのメーカーも生き残りをかけた戦いの最中にあります。経営者は株式市場からEBIT 10%を超える高い利益率を求められていますが、配当や自社株買いで30〜40%の株主還元も実施しており、利益率を圧迫しています。ほんの5〜6年前は盤石と思われたドイツのプレミアム自動車メーカーでさえも、最大市場の中国の激変と100年の一度の大変革の波に遭遇して、懸命にトランスフォーメーションを成し遂げようと苦闘している様が伝わってくる会見でした。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

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