米国のEV販売の減速を受けて、「GM、フォードはEV投資を大幅見直し」といった報道を目にする昨今ですが、果たして本当のところはどうなのでしょうか。真っ先に飛びつくが見切りも早い米国型ビジネスの典型がここでも認められるのか、そうでなく一時的な調整なのか。その辺りの真意を7月下旬の両社の2024年第2四半期決算会見から探ってみます。(タイトル写真はGMシボレーの看板車種、シルバラードピックアップトラックのEV)

フォードは安易に他社とパートナーを組まない

事業領域をフォードブルー(ICE車)、モデルE(EV)、フォードプロ(商用車)の3つに分けて経営している点もユニークです。それぞれのユニットの利益や損失も個別に明示しており、モデルEは年間5億ドルの損失を出してブルー(2.1億ドル)やプロ(5億ドル)の利益を蕩尽しています。特に力を入れているのがプロで、鉱山開発や建設現場、救急車両などで5割前後のシェアを持つFシリーズスーパーデューティトラックはドル箱商品であり、商用デリバリーバンのトランジット(含EV)も高いシェアを誇ります。

画像: 15%の営業利益率を誇るフォードプロ事業部の看板車種の一つであるトランジットのEVは2021年から生産が始まった。

15%の営業利益率を誇るフォードプロ事業部の看板車種の一つであるトランジットのEVは2021年から生産が始まった。

ソフトウェアも重視している領域で、インフォテイメントや自動運転(支援)システム、パワートレインやブレーキに至るまで広い領域でOTAでのアップデートに対応しており、既に76万台がそうしたデジタルサービスの契約者となっています。商用車フリートのユーザーには、テレマティクスでリアルタイムのドライバー支援機能やセキュリティ機能を提供するなど、来年は10億ドル以上のソフトウェア収益を見込んでいます。

EVやSDV(※1)で他社とパートナーを組まないのか、という質問に対してファーリーCEOは、例えばフォルクスワーゲンとは同社のEVプラットフォーム(MEB)で欧州市場向け新型エクスプロラー(EV)の開発を行っており、そうした協力の意味はよく理解しているとした上で、「今は、電動化やデジタルアーキテクチャへのトランスフォーメーションに向け各社が一世一代の投資を行っている時だ。コスト競争力といった会社の未来を決定するような事を他者に託すようなことはしない」と、自社での垂直的統合型でEV・SDV開発を進める意向です。※1:ソフトウェア・デファインド・ビークル

画像: 先頃フォードはVWのMEBプラットフォームをベースに開発したエクスプローラー(EV専用車)の生産をケルン工場で開始した。

先頃フォードはVWのMEBプラットフォームをベースに開発したエクスプローラー(EV専用車)の生産をケルン工場で開始した。

フォードは、VWがシャオペン(小鵬汽車)と組んだように中国メーカーのプラットフォームをほぼそのまま活用するような提携は考えておらず、バッテリーでは電池最大手の中国CATLと組むものの、その他はコンポーネントベースでの協力関係を考えるとしました。過去にマツダやKIAなどと共同開発で豊富な経験があり、そうした形で行けると自信を持っているようです。

フォードは、EVではテスラと中国メーカーをベンチマークにしており、特別に編成したスカンクチーム(調査隊)を中国に何度も派遣してプロダクト開発戦略を練り、その知見を小型EVの開発に活かしていくようです。もしEVでパートナーを組むとしたら大型の車となり、しかも「史上空前レベル」の大きな話になるとの発言もあり、単なる仮定の話なのか個人的には気になりました。

画像: 社長CEOのジム・ファーリー氏は、トヨタ(レクサス)の責任者を経て2007年にフォードに入社。フォードGT 40などの往年のレーシングカーを収集しサーキットでも走らせるカーガイでもある。

社長CEOのジム・ファーリー氏は、トヨタ(レクサス)の責任者を経て2007年にフォードに入社。フォードGT 40などの往年のレーシングカーを収集しサーキットでも走らせるカーガイでもある。

いずれにしても、今回のGMとフォードの決算会見から感じたのは、両社が冷静にマーケットと対話しながら、長期的なEV戦略をローリングで検証しつつ調整・実行しているということです。米国と中国が主力市場で2035年にICE車をやめると宣言しているGMの方が、よりリニアにEVへ至る道を考えているのに対し、欧州フォードや商用車をもち、グローバルなパートナーシップで豊富な経験を持つフォードは、複雑な変革の時代のビジネス構築に対応力があるのかもしれません。デトロイトの両雄の今後の道筋は意外と異なっていくのかもしれないと、両CEOの話ぶりを聞いて感じた次第です。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

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