米国のEV販売の減速を受けて、「GM、フォードはEV投資を大幅見直し」といった報道を目にする昨今ですが、果たして本当のところはどうなのでしょうか。真っ先に飛びつくが見切りも早い米国型ビジネスの典型がここでも認められるのか、そうでなく一時的な調整なのか。その辺りの真意を7月下旬の両社の2024年第2四半期決算会見から探ってみます。(タイトル写真はGMシボレーの看板車種、シルバラードピックアップトラックのEV)

GMはEVの未来には自信を持っている

GMは今回、シルバラードEVの2つ目の生産拠点となるミシガン州オリオン工場での生産開始を2026年半ばに延期すると発表しました。このシボレーの看板車であるフルサイズピックアップトラックEVの一般顧客向けモデルは納車が始まったばかりですが、ライバルのフォードF150ライトニングの販売状況を見ても需要は限られており、1年間で2度目の延期を決めました。

しかし、GMはEVシフトに懐疑的になっているわけではなく、今後アルティウム電池搭載車の生産台数が増えることで、バッテリーコストは30ドル/kWh削減でき、今年中に固定費を除いたEV単体での黒字化(variable profit positive)の達成を見込んでいます。バーラ氏も、「EVはトルクがあって運転が楽しいと考えるユーザーも多い」と述べ、宣伝広告を通して新しいEVの認知度を上げるとしており、着実に顧客を増やしていけると考えているようです。

画像: 就任10年目を迎えるメアリー・バーラCEO。収益はICE車に支えられているが、今後導入が加速するEVの可能性にも自信を示す。

就任10年目を迎えるメアリー・バーラCEO。収益はICE車に支えられているが、今後導入が加速するEVの可能性にも自信を示す。

また11月に大統領選を控え、政府のEV政策にどの程度影響を受けるかという質問に対しては、「政策の一貫性は望むが、政策如何に関わらずEVとICE車、そして主要なセグメントにおいては(プラグイン)ハイブリッドの『選択肢』を顧客に提供するフレキシビリティーを持たせる」としています。

GMは投資タイミングの調整や固定費の削減、部品やコンポーネントの点数削減や販売コストの最適化など財務的規律(descipline)に長けており、同時に自社株買いを積極的に行うことで株式価値を高めており、クルーズ問題が発生した昨秋は20ドル台に低迷した株価も現在は40ドルを上回っており、投資家やアナリストから安定した信頼を得ている印象です。

より多角的な経営を行うフォード

利益率や株価ではGMの後塵を拝するものの、20世紀初めにモデルTと大量生産方式で自動車の世紀の幕を開いたフォードは、2020年に就任したジム・ファーリーCEOの下、「フォード+」という計画を進めています。2021年からテネシーやケンタッキー、ミシガンにEVやバッテリーの一大生産拠点を建設する大規模投資を進めており、2022年にはマスタングマッハEやF-150ライトニングなどのEV生産を開始するなど、デトロイトのライバルに一歩先駆けてEV量産化へ舵を切りました。

F-150ライトニングは一気に3シフト生産体制まで確立しましたが、需要が伸びずにすぐに1直に縮小し、マスタングマッハEはテスラに準じて価格を大幅に値下げするなど過去2年間にジェットコースターのような浮き沈みを体験しましたが、これは同社に貴重な教訓を与えたようです。今年上半期のEV販売は44,180台でテスラに次いで第2位を維持し、値下げの効果もあってEVの販売は順調に推移しています。

画像: 一時は年間15万台のF-150ライトニングの生産を想定したフォードのルージュエレクトリックセンター。今年は7月までに1万8000台の販売(前年同期比+79%)と着実なペース。

一時は年間15万台のF-150ライトニングの生産を想定したフォードのルージュエレクトリックセンター。今年は7月までに1万8000台の販売(前年同期比+79%)と着実なペース。

フォードによれば、F-150のような大型車では大容量の搭載電池のコストが嵩み、ICE車とは逆にマージンが切り詰められるため、次世代EVの開発の主眼は小型車において、これで利益を出す考えにシフトしています。ファーリーCEOは、「廉価なEVの場合、(最大7500ドルの)政府補助金の割合も大きくなり、(燃料代やメンテナンス代など含めた)EVの維持コストの安さを顧客は身をもって体験できる」と、小型EVが市場に浸透する鍵だと考えています。

フォードは、小型ピックアップトラックの「マーヴェリック」やF-150にフルハイブリッド(HEV)車も備えますが、現在これらが非常に好調であり、さらに大型のFシリーズトラックにもHEVを投入する他、既存のプラグインハイブリッド車に加えて、EREV(レンジエクステンダーEV)も開発する意向です。その意味では、GM以上にフレキシブルなパワートレイン戦略を取っていると言えます。

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