スカウトは果たしてどうなるのか
もう一つは、VWが北米市場で再興させるスカウト(Scout)ブランドとの関連です。フォルクスワーゲンは、1960〜70年代に米国で人気のあったSUVブランド「スカウト」を復活して2026年末に市場導入すべく、サウスカロライナ州に新工場を建設中です。今年の夏のうちに新スカウトモデルがお披露目される予定ですが、リヴィアンのSUVとも競合が予想され、今回の投資でスカウトの将来はどうなるのかと疑問が湧いてきます。VWのCFOのアルノ・アンテリッツ氏は、電話会見でスカウトの計画に変更はないと明言しましたが、将来のスカウトモデルにこのJ/Vのアーキテクチャを採用することも視野に入っているようです。
さらに、ドイツのハンデルスブラット紙は7月2日に関係者の話として、スカウトの工場でリヴィアンを生産するプランも検討されていると報じましたが、リヴィアン側は否定し、VWはノーコメントだったようです。EV販売が減速している中で、スカウトモデルだけで年産20万台の工場をフル稼働できるかは不透明であり、今後の展開によっては、リヴィアンが休止しているジョージアの工場建設を止めて、スカウトの工場で生産といった選択肢も出てくる可能性も確かにありそうです。
意気投合した両社のCEO
今回の提携のきっかけは、昨年8月にアトランタのポルシェエクスペリエンスセンターで、スカリンジ氏とブルーメ氏が会って、クルマへの情熱や会社経営の哲学などですぐに共感したことが発端だと明かされました。スカリンジ氏は、そのファーストネームとミドルネームの略称RJ(ロバート・ジョセフ)で親しまれていますが、ブルーメ氏も電話会見中「RJ」を連発しており、気心が知れた同士というのは本当なのでしょう。RJはフロリダで育ち、小さい頃からメカ好きで大学では機械工学を専攻し(マサチューセッツ工科大学で修士と博士号取得)、ポルシェ356をレストアするなどエンジニア気質がドイツ人に気脈を通じるものがあるようで、ポルシェやアウディのスタッフと議論するのは楽しいと話しています。
リヴィアンのミッションは、「化石燃料から脱却し持続可能なエネルギーと輸送システムを作る」で、これはテスラと同じといってよく、また設立当時からソフトウェア開発も社内で行い垂直統合型のオペレーションをとってきたこともテスラに準じます。メリハリのある低い声で、明瞭かつロジカルに話すRJのキャラクターが投資家の信頼を得ているからこそ、巨額の赤字を出し続けても「次のテスラ」の最有力候補として、アマゾンを含む株式市場の信頼を繋ぎ止めているのでしょう。
両社トップがJ/V設立で概ね合意した後、今年初めにドイツからシリコンバレーにアウディ車両が持ち込まれてリヴィアンのE/Eアーキテクチャやソフトウェアが組み込まれ、機能するか試験するなどVWグループ車両との適合性が検証された模様です。それが可能とわかり今回の発表に至ったわけですが、今後はVWが開発中のSSPへの適合性の検証やリヴィアンの財務的目標の達成などいくつかの条件(milestones)がクリアされることを確認した上で、2025年以降の追加投資が最終決定されます。