世界初の量産PHEVはBYDから誕生していた
日本ではBYD=EVメーカーという印象が強いが、実は世界で初めて量産型PHEVを開発したのもBYDである。2008年1月に発表された「F3DM」は、20kWの走行用バッテリーを搭載し60マイル(約96km)を電気だけで走行することが可能とされていた。ちなみにDMは“Dual Mode”を意味している。当時は、日米欧韓の自動車メーカーがPHEVの開発に鎬を削っていたが、BYDがいち早く量産、市販にこぎ着け、これにトヨタ プリウスPHVやシボレー ボルトが続いた。
ここ数年のBYDはEVを前面に押し出していたが、PHEVの開発、販売も連綿と続き、とくに2021年に次世代型PHEVテクノロジーである「DM-i」を初採用して以降、販売台数は急増。2023年度の累計販売台数はすでに360万台を超えている。中国で販売されているPHEV車の2台に1台がBYD車となる計算だ。
そして、第5世代を迎えた「DM-i」は、ついに46.06%という世界最高水準の熱効率と2.9L/100kmという低燃費、そして2100kmという航続距離を実現した。
発表会は2024年5月28日、かつてF3DMが生産された西安で開催された。ステージに立ったBYDの王伝福会長兼社長は、「従来の自動車の3分の1の燃料消費量と3倍の航続距離を実現し、これまでにない効率を提供する。BYDは世界の市場でPHEV技術の最先端を走っている」と同社の先進性を強調した。
第5世代DMテクノロジーがPHEVの可能性を広げる
発売が開始された「秦(Qin) L DM-i」と「Seal 06 DM-i」は、内外装の処理が異なるだけで中身はほぼ同じ兄妹車だ。
PHEVに特化した1.5L直4エンジンは単体で74kWの最高出力と126Nmの最大トルクを発生。その熱効率は日本メーカーが得意とする高効率エンジンを大きく上回る。一方、モーターは120kW/210Nmまたは160kW/260Nmの2種類がラインナップされる。組み合わされるPHEV専用ブレードバッテリーは前者が10.08kWh、後者は15.87kWhとなっている。
EHSハイブリッドシステムは、出力密度を従来比で70.28%向上させることでエネルギーロスを削減し、運転効率を92%向上させた。また自動車で初めて、バッテリー、エンジンルーム、キャビン内部の熱を包括的に管理するシステムを採用し、極端な天候下においてもエネルギーを効率良くコントロールすることで無駄なエネルギー消費を抑制するという。
EV走行距離はバッテリーの組み合わせによって異なり、10.08kWh搭載車が60km、15.87kWh搭載車は90km。航続距離は全車全グレードで1回の満タンと満充電で2100kmを実現したと発表されている。PHEVでありながら、燃料タンク容量65Lを確保したのが奏功しているのだろう。ただし、走行距離に関してはあくまでNEDCモードであり、日本などで使われているWLTCモードとは異なる点には留意しておきたい。
日本上陸は未定だが実現すればヒットの予感大
さらに驚異的なのはその価格設定だ。「秦L DM-i」、「Seal 06 DM-i」ともに現地価格は9万9800元(約218万4000円)から13万9800元(約305万9000円)だ。
秦L DM-i、Seal 06 DM-iともに日本市場上陸に関するインフォメーションは現在のところはない。とは言え、EVのSealが今夏に国内発売されることを考えれば将来はわからない。さらに言えば、EVシフトがなかなか進まない日本市場では、むしろPHEVのほうが普及の下地はあるかも知れない。
もっとも日本勢もガソリンエンジンの熱効率改善を着々と進めている。日中の“マルチパスウェイ”を巡る競争は、今後さらに加速していきそうな気配ではある。