2024年に入りPHEVの販売が増加
各国の補助金の打ち切りなどもあって、2023年には前年からマーケットシェアを7%落として7.7%に沈んだPHEVですが、今年1〜2月の販売(※2)では、販売全体が11%増加のところ、PHEVはEVと同様に17%強の伸びを示し、特にEVの補助金が昨年末で終了したドイツではPHEVは40%の増加となっています。※2:ACEA(欧州自動車工業会)データによる
自動車メーカーの首脳も、メルセデス・ベンツのオーラ・ケレニウスCEOが、「PHEVはこの先何年も続くだろう」と述べ、EVの成長スピードの鈍化をPHEVで補う姿勢に転換しています。「2026年以降の新型車はEVのみ」の方針を変えていないアウディのゲルノート・デルナーCEOも、「eモビリティへの転換は不変だが、市場の波や変動に合わせてエンジン車、PHEV、EVを柔軟に供給していく」とし、これから2年でEVのみならず、PHEVやエンジン車を含め20以上のニューモデルを導入する予定です。
このようなPHEV復活の流れの中で、今回のEUのリアルワールドCO2排出量のデータが3.5倍という結果は、ハイブリッドやPHEVの品揃えを強化して顧客需要に対応しようとしている自動車メーカーには厳しい現実と言えます。また、米国でも先月最終決定されたEPAの2027〜2032年のCO2排出規制では、カリフォルニア大気保護局(CARB)の最新の車載コンピューターOBD(On Board Diagnosis)データを元にPHEVのUFを従来より厳しく設定しています。
自動車メーカーは、PHEVのバッテリーを大型化して100km以上のEV走行レンジを提供してユーザーの充電の労を減らしたり、EV走行の経済性(ガソリン代の節約)をアピールして小まめな充電を心がけるよう啓蒙するなど、PHEVのリアルワールドでのCO2削減の有効性を高める努力を通して規制への対応を図っていくことになりそうです。(了)
【EUのCO2排出規制の補足】
各自動車メーカーは設定された規制値を1g/km未達するごとに1台につき95ユーロという高額な罰金をEUより課される。例えば、2020年に目標値にわずか0.75g/km未達だったフォルクスワーゲングループは1億ユーロ(150億円)、ジャガーランドローバーは4000万ポンド(64億円)の罰金を払ったとされる。2020年の規制値は旧来のNEDC走行サイクルでは95g/kmだったが、現行のより厳しいWLTPサイクルではこれは115g/kmにあたる。
また、2021年からはメーカー間でグループを組むことが可能になり、例えば、ホンダとジャガーランドローバーは、EV専売のテスラと組むことで2022年の平均CO2排出量をわずか50g/kmに抑えている。同様に、トヨタ/スバル/マツダ/スズキ、ルノー/日産/三菱、VWと上海汽車(SAIC)もグループとしてCO2排出量を合算して対処しており、多額の罰金を払うメーカーはなくなった。
規制値は2029〜2034年には49.5g/kmと半減、2035年には「0」となり原則ゼロエミッション車のみ販売可能となる。なお、各メーカーのCO2規制値は車両の平均重量により調整され、平均より重ければその分高めに設定される。(以上については、オートモティブニュースヨーロッパの記事などを参照した)
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。