EV/PHEVを蓄電池と見なして、充電だけでなく時には系統電力網に電気を供給する「V2G(Vechle to Grid)」。その実用化に向けては、技術領域に加え法整備ほか国や地域によってさまざまなハードルがあるが、それを乗り越え本格的な市場導入を開始するのが仏ルノーだ。同グループの「モビライズ(Mobilize)」は、V2G対応のEV/PHEV用充電器の生産を開始し、間もなく始まるジュネーブモーターショーで公開される新型ルノーサンクE-TECHが、その適合車の第一弾となる。(タイトル写真はイメージ)

EVシフトが進む国は次のステップの「V2G」へ

日本とは電力事情が異なるので単純な比較はできないが、資源に乏しく自然災害が多い日本ではすでに非常用電源としても「V2G」の重要性は十分に認識されており、政府/関係省庁でも議論が進んでいるのは事実だ。

画像: ホンダがめざすV2Gのイメージ。新たな電力事業としてビジネス面での環境整備も必要になる。

ホンダがめざすV2Gのイメージ。新たな電力事業としてビジネス面での環境整備も必要になる。

一方で、V2G実現の大前提となるのが、現在の大規模な電力会社による電力網から、地域に根差した分散型電力システムへの移行である。さらに、その管理/運営には高度なIT技術が求められ、発電/送電網のデジタル化が欠かせない。

また電力会社、運営会社、充電設備会社、そしてEVオーナーなどさまざまなステークホルダーの利害調整も絡んでくる。セキュリティも含め法整備も必要だ。もちろん、事業者の収益確保も重要だ(ちなみにモビライズは2027年度に2桁の利益率を達成するのが目標だという)。

つまり、現状、日本でのV2Gは課題が山積したままだ。トヨタ、ホンダ、日産、三菱などが実証実験を重ねてはいるものの、肝心のEV普及率の低さや充電インフラの充実度なども考え併せると、その実現にはまだかなり時間がかかりそうだ。日本独自の充電規格である「CHAdeMO」はV2Hだけでなく、V2Gプロトコルにも対応しているはずなので、そのポテンシャルが十分に生かされていないのはもったいない。

画像: トヨタは米カリフォルニア州サンディエゴで地元の「サンディエゴ・ガス&エレクトリックカンパニー(SDG&E)」と共同でV2Gの研究開発を行っている。

トヨタは米カリフォルニア州サンディエゴで地元の「サンディエゴ・ガス&エレクトリックカンパニー(SDG&E)」と共同でV2Gの研究開発を行っている。

ちなみにEU圏では、2024年6月までにV2G技術採用の進捗状況報告と評価を加盟国のEV生産/販売メーカーおよび充電設備会社に義務付けている。すでに、フォルクスワーゲングループ、メルセデス・ベンツ、ボルボ/ポールスターなど多くの自動車メーカーがV2G対応車を発売、もしくは近日中に発表予定だ。

画像: ポールスターが実証実験で使用している管理アプリ。電気の出し入れ状況がひと目でわかる。

ポールスターが実証実験で使用している管理アプリ。電気の出し入れ状況がひと目でわかる。

EV/PHEV大国の中国もいよいよ本気に

いまや世界最大のEV大国となった中国の動向も見逃せない。去る2023 年10月には、江蘇省に建設された過去最大規模となるV2G実証センターが稼働を始めた。50台の新エネルギー車(EV/PHEV)を系統電力に接続し、電力需要のピーク時を避けて充電するとともに電力網の需要が高まると逆に接続した系統に給電するシステムの実証実験を開始したのだ。小規模な実証実験はすでに2020年頃から始まっていたが、いよいよ実用化に向けての第一歩に踏み込んだ形である。

自動車の動力源が内燃機関からモーターに置き換わるのがEVシフトの第一段階だとするならば、2024年はその第二段階に踏み込むことになる。今後どのような形で世の中に浸透していくのかは予測が難しいが、世界は次のフェイズに突入しつつあることは間違いなさそうだ。

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