賛成54.5%。レンタルキックボード廃止の投票より大幅に低い支持率
ところで、住民投票とはいっても今回の投票率はわずか5.7%。137万人のパリ市民のうち7万8000人しか投票所に足を運んでいません。昨年4月のレンタルキックボード廃止案の場合も投票率は7%台と低いものでしたが、この時は、89%が廃止に賛成票を投じました。パリでは、2022年に408件のキックボード関連事故があり、495人が負傷し3人が死亡したということで、キックボードを使用しない高齢者の反対層がこぞって投票所に向かったといわれました。この禁止措置は世界初のことで賛否両論ありましたが、昨年9月以降、ライム、ティア、ドットの3社の15,000台のレンタルキックボードはパリの街から姿を消しました(個人所有のキックボードの走行は規制されません)。
パリは、ルーブル美術館やノートルダム寺院などがある中心部から螺旋状に20の区がありますが、今回の投票でも、区によって賛否が分かれたのも興味深いところです。パリセンター(1〜4区)など内側の「ゾーン1」では、大部分の区が賛成70〜80%でしたが、エッフェル塔や大使館街、凱旋門や高級ショッピング店の多い7、8区では反対が上回っています。外側の「ゾーン2」では、モンパルナスから南西方面の15〜17区では反対が7割以上に達しており、反対が最多で8割を超えた16区は日本人も多い高級住宅街で、公共交通機関の便もあまり良くなくクルマ移動が多いためと想像できます。
都市はクルマからマイクロモビリティへの転換を進める
イダルゴ市長は、当初はキックボード推進派でしたが、歩行者だけでなくサイクリストからも危険といわれ、事故も多いことを理由に禁止に転じました。2020年に再選された年にコロナ禍に直面した際は、ロックダウン終了後、パリの道路に「コロナピステス(coronapistes)」と呼ばれる臨時の自転車走行レーンを50km以上設置し、自転車での移動が70%も増えた政策(※1)でも知られています。このコロナ禍に自転車の利用が一気に広がったことで、市民もパリはそんなに広くなく自転車で十分移動できることを発見し、なかなか進まなかった自転車レーンの設置が急速に進んだのです。※1:現在のパリの自転車移動の様子はこちら市長の“X”のツイート動画をご参照
同時に、“Paris Respire(パリの呼吸)”というプロジェクトでは、日・祝日の日中に道路を歩行者専用にする地区を設定し、毎月第1日曜日はパリ中心部の大半とシャンゼリゼ通り周辺も歩行者天国となっています。さらに、「zone de rencontre(ミーティングゾーン)※2」と呼ばれる歩行者優先道路を増やしたり、シャンゼリゼ通りを「緑の庭」に変える計画も、オリンピックイヤーを挟んで進められています。今回のSUV駐車料金の住民投票でも、各区において歩行者専用道路や緑化地域の拡大の是非を問う投票も同時に行っています。※2:歩行者は車道を歩け、自転車も双方向通行可能。クルマは20km/h以下に制限
2030年にはエンジン搭載車の通行を全面的に禁止する
街の大気浄化についても、パリは欧州の大都市の中でも最も先鋭的に進めており、現在でも乗用車や軽量積載トラックはCrt'Air3以上(2006年施行のユーロ4以降の排ガス基準適応)の車両のみが走行可能で、2025年1月からはCrt'Air2以上(2011年施行のユーロ5以降の排ガス適応)の車両のみとより厳しくなります。2030年にはエンジン搭載車を全面禁止にする予定で、EVとFCV(燃料電池車)しか走行できなくなります。ロンドンでも、グレーターロンドン地域を走行する車両は、ガソリンではユーロ4以上、ディーゼルではユーロ6排ガス適応車でなければ12.5ポンドの罰金が課されますが、パリの計画の方がより厳格です。