ラスベガスのCESが閉幕した週末から北極の最大級の寒波が北米大陸を襲い、シカゴやデンバーなど各地で、テスラの充電ステーションで長蛇の列ができ、何台もがバッテリー切れで牽引されたというニュースがアメリカのメディアやSNSを駆け巡りました。気温が摂氏マイナス20度まで下がったシカゴでは、数時間の充電待ちの列で車内で暖をとるうちに電欠したオーナーが続出し、プラグインしても充電器から電気が全く入らなかったり、通常の何倍もの時間がかかったのがこの混乱の原因でした。ロイター通信の自動車論説主幹のジョセフ・ホワイト氏は、ニュースレターで“Winter comes to EV”と、販売が減速しているEVに冬の時代到来だとコメントしました。

冬に力を蓄えて春に開花できるか

現状のEVは、価格、航続距離、充電インフラ、再販価値の点で、まだ一般の消費者には説得力が十分ではありません。複数台所有する富裕層やアーリーアダプターに行き渡ったとすれば、次の飛躍の波は、価格や航続距離などで消費者の納得いくモデルが登場する頃、すなわち北米ではトヨタやホンダの新世代EVが登場し、欧州ではテスラの小型車(モデル2?)やVW ID.2、BMWノイエクラッセやメルセデスの新型EVプラットフォームのCLAが出るタイミングとなる2026年以降に来ると思われます。

2024年については、欧州と米国の自動車市場の伸びは2%台と予想されており、そのうちEVのシェアは2ポイント程度増えて、米国では昨年第4四半期の8%が10%に乗るかどうか、欧州ではドイツ、UK、フランスの主要市場でシェア20%に届けば上出来という展開になりそうです。

EVシフトに大きく舵を切った米国自動車メーカーには、市場の成長スピードの読み違いがあり、欧州や日本の自動車メーカーにとっては、中国メーカーのコスト競争力やSDVシフトのスピードは想定外でした。ハンデルスブラット紙が指摘するように、これから2年ほど冬の時代をどう凌いで、来るべき春に新世代のEVで跳躍(Vorsprung)できるかがこの競争の勝敗を分けるのでしょう。同時に、少なくとも2030年頃までは、EVの競争力だけでなくプラグインHVやハイブリッドといった選択肢を持って、市場ごとに柔軟な対応をという難しい舵取りを自動車メーカーは求められています。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

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