ドイツ自動車産業の正念場
先週末の独ハンデルスブラット紙は、電気自動車が仰向けにひっくり返ったイラスト付きで「自動車会社の大いなるe覚醒(※2)」と題した長文の記事を掲載しました。ドイツ自動車メーカー3社(BMW、メルセデス・ベンツ、VW)を合わせてもEVの世界シェアは13.9%に過ぎず、テスラの21.3%、BYDの16.4%に遠く及ばないこと。昨年のドイツ国内での自動車生産台数は410万台で、これは2016年の570万台から大幅に減少していること。欧州のコンパクトEVセグメントでは、上海汽車傘下のMG4 の販売台数(62,700台)がVW ID.3(57,840台)を上回っていることなど、悲観的な事実を列挙しています。欧州に雪崩を打って進出している中国系メーカーは大幅なコスト優位を持っており、その攻勢にどう対抗するかも大きな焦点です。※2:原題は“Die gross Nuchterung der AutoKonzern”
同紙は、現在ドイツの自動車産業は危機の只中にあり、今こそ「電気技術による飛躍(Vorsprung durch Electrotechnik)※3」を果たさない限り自動車大国としての地位を失う、と厳しいトーンでこの記事を締め括っています。※3:アウディのブランドスローガンである“Vorsprung durch Technik(技術による先進)”をもじったもの。
EVの冬に追い討ちをかけるように、欧州最大のレンタカー会社の独Sixtは、修理費が高く残価低下が著しいという理由で所有するテスラ車を売却し、今後ステランティスから25万台、BYDから10万台購入すると発表しました。米国でもHertzがテスラなどEVを2万台処分して内燃車に代えると発表しています。
それでもEVの新車は続々と
このように米国、欧州ともに市況が冷却しているEVですが、一方で、2024年も新製品は続々と投入されます。プレミアムメーカーでは、アウディQ6 e-tron、ポルシェマカンEV、ボルボEX30やEX90にポールスター3&4、レンジローバーEVなどが新たに導入されます。北米では、キャデラックがリリック(SUV)に加え、セレスティック(セダン)やエスカレードIQを導入し、GMCはシエラEVを。ステランティスからは、ラムピックアップトラックやジープワゴネアSといったEVが予定されています。テスラモデル3のマイナーチェンジモデルも米国販売はこれからで、ヒュンデやKIAもアイオニック5やEV5を刷新、日本勢ではホンダのプロローグSUVが導入されます。
一方で、米国政府のEV購入補助金は、中国製の電池材を使用しているモデルが対象から外れたため、今年1月現在、シボレーボルト、フォードF-150ライトニング、リヴィアン、テスラモデルYとモデル3(の一部)に限られており、この点でもEV販売には厳しい状況です。
欧州の大衆セグメントでは、マイナーチェンジしたVW ID3/4に、シトロエンe-C3、 ルノー5、フィアットパンダEV、フォードエクスプローラーEVなどが発売され、MGやBYDなどの中国勢に対抗することになります。
経済は米国より欧州の方が厳しそうですが、2035年に内燃機関車の販売を原則禁止するという明確な法律がある欧州では、EVのシェアはそれでも増えていくでしょう。連邦政府の2030年以降のCO2削減の規制がまだ決まっていない米国は、EV懐疑派のトランプ大統領の復活もあり得るため、より波乱含みと言えそうです。