1月9日から12日までラスベガスで開催されたCES(コンシューマー・エレクトリック・ショー)を4年ぶりに訪れる機会に恵まれました。ちょうど100周年を迎える今年のCESはコロナ禍から完全復活し、エレクトロニクス、半導体、ソフトウェア、モビリティ、産業機械、住宅、ヘルス・ウェルネスなどあらゆる業界にわたって1200社のスタートアップからメガOEMまで4000社以上が出展し、その多様さは他に類を見ないものです。ミュンヘンや東京のモビリティショーもかなり変わった印象はあるものの、CESの多様さとスケールは圧倒的でした。(タイトル写真は昨年竣工したラスベガスコンベンションセンターのウエストホール入口)

「インダストリアル メタバース」の衝撃を伝えたシーメンスのキーノート

自動車業界で「CASE」革命という言葉が生まれたのが2016年。それ以来、世界の主要自動車メーカーはこぞってCESに出展し、メルセデス・ベンツ、BMW、トヨタ、GMなどのメーカーのトップがキーノートスピーチに登場してきました。今回は、独シーメンスと化粧品の仏ロレアルが登壇。今年資生堂が初出展して、AIを使ったスキンケアの個別アドバイスや20年後の顔の皺を予想する実演を行うなど、ヘルスケアへのAIの浸透も目覚ましいようですが、10数年前まではディーゼルエンジンの噴射装置で高いシェアを誇り、原発や鉄道車両、風力発電などハードウェアの総合電機メーカーだったシーメンスが、データとAIによる「インダストリアル メタバース」の劇的な進化を紹介したのはインパクト十分でした。

画像: 開幕前日のキーノートスピーチを行ったシーメンスのローランド・ブッシュCEO。同社はデジタル インダストリー ソフトウェア会社に変身を遂げている。

開幕前日のキーノートスピーチを行ったシーメンスのローランド・ブッシュCEO。同社はデジタル インダストリー ソフトウェア会社に変身を遂げている。

シーメンスのローランド・ブッシュCEOは、アウディやBMWは、今や新工場の建物から内部のロボットのオペレーションまで「デジタルツイン」で設計し、「ソフトウェア・ディファインド・オートメーション」によって工場内の何百ものコントローラボックスを一つのサーバラック内のバーチャルコントローラーに集約したこと。かつてピクサー(Pixar)が映画向けに開発した3D向けの言語USD(Universal Scene Description)が産業用に応用されて、Red Bullレーシングは3Dシュミレーションでフォーミュラ・ワンカーの内装やステアリングホイールの設計を行うこと。ロボットアームの義肢を製造するUnlimited Tomorrowのようなスタートアップが、日々成長する子供にピッタリの義肢を素早く低コストで製造できることなどを次々に紹介しました。

ソニーのテクノロジー担当副社長の松本義典(よしのり)氏も登壇し、開発したばかりの3D制作用XR(クロスリアリティ)ヘッドセットをシーメンスに提供し、世界中のエンジニアが参加してプロダクトや装置を「イマーシブ(没入型)エンジニアリング」で開発することに協力すると発表しました。

画像: 高画質の4K OLEDマイクロディスプレイを搭載したXRヘッドマウントディスプレイと、3Dオブジェクトの精密な操作ができるコントローラーを備えるソニーのヘッドセット。(写真:シーメンス)

高画質の4K OLEDマイクロディスプレイを搭載したXRヘッドマウントディスプレイと、3Dオブジェクトの精密な操作ができるコントローラーを備えるソニーのヘッドセット。(写真:シーメンス)

また、シーメンスのメディカル事業では、ガンの早期発見から治療においてAIとデータを駆使することで、個別の症状に最適な治療と療後の健康の向上が可能になるとのことです。

2〜3年ほど前に注目を浴びたメタバースですが、コンシューマー向けには盛り上がりを欠いたものの、産業用として「インダストリアル メタバース」が出現して設計から製造まで革命的な変化を起こしていることがわかります。

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