ADASセンサーにも新たな動き
ロボタクシーのGMクルーズの運行中止などで逆風が吹く自動運転業界ですが、ブーム期にタケノコのように乱立したLiDARカンパニーのほとんどは利益が出ていないにも関わらず、Luminar、Hesai 、Innovizなどを始め多くのスタートアップが出展していました。まだまだコストが高く、これまで量産車でLiDARを搭載したのはアウディ(A8)、メルセデス(Sクラス)、BMW(7シリーズ)などプレミアムメーカーの最上級車種だけです。そんな中、今回のショーで目を引いたのがサーマルイメージングセンサーを用いたADAS技術でした。
自動防眩ミラーで世界No.1の米国のジェンテックス(Gentex)は、イスラエルのサーマルセンサーのスタートアップのアダスカイ(Adasky)に出資しており、同社のセンサーを車両の前方と後方にCMOSカメラと合わせて搭載し、夜間や悪天候でもクリアに人や動物を視認できることを示しました。アダスカイのLWIR(遠赤外線)センサーのコストはLiDARの10分の1程度とされ、200m先の歩行者も認識できるといいます。
これまでアウディやメルセデス・ベンツの市販車にLiDARを供給している仏ヴァレオ(Valeo)もサーマルカメラの大手の米フリアー(Flir)との提携を今回CESで発表しました。ドイツのアウトバーンでの高速域の自動運転では、300m先の道路上にある物体が何かを検知するにはLiDARが必要ですが、夜間や悪天候時のドライバーの視覚の補完やAED(緊急自動ブレーキ)作動センサーとしてはサーマルビジョンが大いに役立つと考えられ、コストの点から幅広い車種に採用できるセンサーシステムとして日本の自動車メーカーも注目しているようです。
ソニー・ホンダモビリティは、ソニーが得意とするイメージセンサー類に加えてLiDARを搭載し、ホンダが出資したアメリカのスタートアップHelm.ai(今回CESでも出展)のADASソフトウェアを使うことが明らかになっていますが、サーマルセンサーの採用は今のところ言及されていません。
クアルコムのCEO「クルマは新しいコンピューティングスペース」
今回のCESでは、ソニーの吉田会長も「Spatial(スペーシャル)」という言葉を使っていましたが、まもなく発売されるApple Vison Proが起爆剤となり、AIが搭載されたPC端末でVRやAR環境下で「空間(Spatial)コンピューティング」の時代が到来するとも言われています。クルマという空間でもこれから同様なことが起こるのでしょう。
「AIはスマートフォンやPCをクラウドと融合していく」とクアルコムのクリスティアーニ・アモンCEOは登壇した今回のキーノートセッションの一つで述べていますが、ソニー・ホンダモビリティの川西社長も、1日のうち大部分の時間駐車しているクルマは、AIでクラウドと繋がることで、オフィスやエンタテイメント空間となると語っています。
EVの次には「SDV」が来た。SDVという言葉が普通に使われる時代がもうすぐ来るかもしれないと感じた今回のCESでした。(了)
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。