自動車OEMの出展は少なめ
数年前までは、自動車メーカーが新型EVや次世代コンセプトモデルを発表する場だったCESですが、今回は自動車メーカーの出展は多くなく、GMやフォードなどの米国勢の姿はなく、欧州はメルセデスがMBOSの最新技術を発表、BMWは屋外会場でリモート自動駐車の実演をしましたが、VWはパートナーのブースでの出展にとどまりました。
ヒョンデグループ、KIAの韓国勢は展示スペースも大きく存在感を示しましたが、ヒョンデの目玉はEVではなくeVTOLや水素エネルギー社会。新型のEVを展示したのは、昨年米国市場に進出したベトナムの財閥系自動車メーカーVinFast やトルコの国営EV企業Togg 、カリフォルニアのEVスタートアップMullenオートモーティブなど新興勢でした。日本の自動車メーカーは、ソニー・ホンダモビリティと新EVコンセプト「0」を発表したホンダのみです。
ソニー・ホンダモビリティの方向性が見えてきた
昨年のCESで車名「アフィーラ」とプロトタイプの発表では、デザインに特徴がないなど辛口の評価もあり、必ずしもその方向性がよく理解されたとは言えませんでしたが、今回の発表では、
1. AI for ADAS - クアルコムのSoC(システムオンチップ)を採用し、エピックゲームズとの協力でADASやナビゲーションもエンタメ化。
2. 会話型パーソナルエージェント - Chat GPTのオープンAIを傘下におくマイクロソフトとの提携
3. ポリフォニーデジタルのシュミレーション技術でリアルとバーチャルのエモーショナルな融合
などの方向性が示され、実現されるユーザー体験が明確になってきました。
ADASは、もっぱら安全性や快適性を高める技術として語られてきましたが、アフィーラでは、自動運転でナビゲーション中も、そこに没入できるエンタテイメント的な要素が組み込まれるその一端が紹介されました。
また、会話型パーソナルエージェントは、今や自動車メーカーがこぞって導入を急いでいます。フォルクスワーゲンは8日の記者会見で、iPhoneのSiriの開発で知られるセレンス(Cerence)と提携してChat GPTをIDシリーズなどに組み込むことを発表。BMWはアマゾンアレクサの採用を、昨年Chat GPTを期間限定でアメリカのMBUX搭載のユーザー車両でテストしたメルセデスベンツも、その進化型の音声対話機能を披露しました。MBUXの次なる展開は、生成AIとLLM(大規模言語モデル)を使った「バーチャルアシスタント」で、3Dグラフィックスを用いた「サラウンドナビゲーション」や「サウンドドライブ」が2025年に導入され、極上(hyper)でパーソナルな体験を提供するそうです。
自然言語でクラウドと繋がりChat GPTと対話できるようになれば、自動車のHMIには画期的な変化が起こります。アフィーラは、それを生成AI とクラウド(Azure)を持つマイクロソフトと提携することで実現するようです。
こうして分かってきたのは、「アフィーラ」は、SDVのど真ん中を目指しているということであり、プレイステーションで培った人間の感性とエモーションに訴えるバーチャルとリアルの融合したXR体験を実現しようとしているということです。
8日夕刻のソニーのプレゼンテーションの最後で吉田憲一郎会長は、「人とテクノロジーの関係を再定義し、KANDO(感動)を与える体験」を常に目指していくと締めくくりました。かつてテレビや音響機器、クルマなどのハードウェアで世界を席巻し、今はマンガ、ゲーム、アニメなどのソフトで世界の憧憬を集める日本発ならではの「Affinity(親和力)」溢れる体験が「アフィーラ」から生まれるかもしれないという期待が高まったのでした。