7月10日にフォルクスワーゲン(以下:VW)乗用車ブランドのトーマス・シェーファーCEOが全世界の幹部2000人を集めたミーティングで、“屋根が燃えている(The roof is on fire!)”と緊急事態を宣言したことがドイツで話題になりました。EV化に邁進するVWですが、中国での販売低迷や欧州でのEVの注文の減少で苦境に陥っている模様で、同CEOは「VWブランドの未来は危機に瀕している」、「完全な嵐といっていい」といった激しい言葉を使って、出張予算からイベントまで徹底的な支出の削減を要請しました。VWブランドは、2026年までに営業利益率を現在の倍の6.5%に引き上げる目標を掲げており、そのために今後3年間で100億ユーロの収益改善を目指しています。果たしてVWの危機はどれほど深刻なのか、上半期の主要マーケットでの販売状況を見ながら探ってみたいと思います。(タイトル写真はID.4を生産するドイツエムデン工場。夏季休業を延長して生産調整に入った)

表面的には好調に見えるEV販売だが……

VWグループは7月27日に第2四半期の決算を発表しますが、それに先立って今年上半期のEVの世界販売台数を発表しました。それによれば、グループ全体のEV販売台数は321,600台(前年同期比+48%)と一見好調のように見えます。欧州では217,100台(同+68%)、米国では29,800台(同+78%)の大幅増で、唯一中国が62,400台(同−2%)とマイナスでした。

ブランド別では、VWブランドが世界で164,800台(+42%)となり、このうち欧州は8万台程度で前年同期からは倍増していますが、欧州だけで169,282台(+117%)を売り上げて「モデルY」が車種別販売のトップに立ったテスラには大きく引き離されています。ちなみに、VWのID.4のドイツの価格は42,635ユーロ[※1]からですが、ふた回りほど大きく加速性能や航続距離でも勝るモデルYは44,890ユーロ[※1]からで、テスラの価格競争力の高さがわかります。※1:ドイツのメーカーホームページより筆者調べ。

「屋根が燃えている」発言を報道したドイツメディアの一つ、ハンデルスブラット(Handelsblatt)紙は、別の記事において、ドイツメーカーの上半期のEV登録台数はバックオーダーの消化のために好調に見えるが、「受注は前年から30〜50%も減っており、第4四半期までにその影響が顕在化するだろう」というシュコダの販売店の経営者でドイツのカーディーラーの業界団体であるドイツ自動車中央連合会(ZDK)の副会長であるトーマス・ペックルン氏の厳しい見方を紹介しています。

画像: VWブランドのトーマス・シェーファーCEOは、今年6月にウォルフスブルグ本社で収益改善プログラム「Road to 6.5」を発表した。

VWブランドのトーマス・シェーファーCEOは、今年6月にウォルフスブルグ本社で収益改善プログラム「Road to 6.5」を発表した。

さらに同紙は、VWブランドの欧州での1〜5月のエンジン車の販売台数が44万5000台と、コロナ前の2019年の77万台から42%も減少していることに注目しています。エンジン車の販売台数が40%以上減少しているのはBMWやメルセデス・ベンツも同様で、この4年間に(EV+PHEV)の市場が伸びた(シェア3.6%→21.5%)とはいえ、内燃エンジン車の減少分を到底補えておらず、「(ドイツを筆頭に)欧州の自動車メーカーの将来は危機に瀕し」ており、サプライヤーや雇用への影響が懸念されるとしています。

ちなみに、上半期の欧州の乗用車販売台数は6,588,937台(+17.6%)[※2]と前年よりかなり増加しており、通年で1300万台[※3]近くに到達しそうですが、これは2019年の1590万台より20%少なく、高金利やインフレなどで以前のレベルには容易に戻らないのではないか、という見方が出ています。※2:ACEA(欧州自動車工業会)発表数値。※3:ドイツのDataforceの2月の予測では欧州30カ国の年間の乗用車市場の見通しは1270万台。

画像: EQシリーズでEV化を進めるメルセデス・ベンツだか、今年1〜5月の欧州でのエンジン車の登録台数は2019年同期比で48%も減少している。北米ではテスラの充電規格に対応することをいち早く発表した。

EQシリーズでEV化を進めるメルセデス・ベンツだか、今年1〜5月の欧州でのエンジン車の登録台数は2019年同期比で48%も減少している。北米ではテスラの充電規格に対応することをいち早く発表した。

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