ソニーグループは2023年1月4日、ラスベガスで開催された「CES2023」のプレスカンファレンスで、ホンダと共同で設立したソニー・ホンダモビリティが開発を進めている電気自動車(EV)の新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」の試作車を世界初公開した。この一大プロジェクトは徐々に形になりつつあるが、そもそもどのような経緯で始まったのか。ソニーの提案か、それともホンダなのか。短期連載で「ソニー・ホンダモビリティの挑戦」を追う。

アフィーラというネーミングに込められた意味

2023年1月4日、米国ネバダ州・ラスベガスで開催された世界最大級のIT家電の見本市「CES2023」の会場には、多くの日本メディアが押し寄せていた。お目当ては、2022年にソニーとホンダが設立した合弁会社「ソニー・ホンダモビリティ(SHM)」が放つ、新たな電気自動車(EV)だ。

同社は2022年10月に開催された会社設立発表会でCES2023において何らかの発表を行うことを示唆し、その後、12月20日には新型EVとみられるティーザー映像を公開した。これまで日本の自動車メーカーはEVに後ろ向きとする論調が目立っていただけに、日本発の新たなEVメーカーの動向に大きな関心が寄せられたのだ。

そして2023年1月4日の当日。“その時”はソニーのプレスカンファレンス後半に訪れた。ソニーグループの代表執行役会長兼社長CEOである吉田憲一郎氏が、同グループが展開するエンタテイメントの世界観を紹介した後に話題をモビリティへと転換。ソニーが目指すモビリティについて紹介すると、ここでSHMの代表取締役会長兼CEOの水野泰秀氏にバトンタッチした。

画像: 「AFEELA」を紹介するソニー・ホンダモビリティ代表取締役会長兼CEOの水野泰秀氏。

「AFEELA」を紹介するソニー・ホンダモビリティ代表取締役会長兼CEOの水野泰秀氏。

水野氏がそこでまず語ったのは、SHMが目指す「多様な知で革新を追求し、人を動かす」という企業パーパスだ。それは両社の合弁によって生まれた新たな知見から生み出されるもので、その知見はやがて最先端技術と感性を掛け合わせた、“Mobility Tech Company”へとつながっていく。SHMはそうした新たな企業文化の中で醸成されていくというのだ。

そして、水野氏はソニー・ホンダモビリティが提供するEVのブランド名を「AFEELA(アフィーラ)」と発表した。そのブランド名に込められたコンセプトは以下の3つだ。

・Autonomy(進化する自律性)
・Augmentation(身体・時空間の拡張)
・Affinity(人との協調、社会との共生)

この3つのテーマの頭文字は共に"A"から始まる。これはアップデートによって常に進化していくことで、ユーザーの身体や時空間を拡張させ、同時に周囲との協調を実現することを意味する。つまり、「AFEELA」はこれら3つのコンセプトを感じ取る"FEEL"を中心におき、この"A"で挟み込んだことに由来するのだという。

アフィーラには自動運転レベル3搭載の可能性も

公開された試作車はサイドビューの凹凸もなく、全体にアクがないすっきりとしたデザインという印象だ。見方によれば印象が薄いということにもなるが、先行受注まで2年とちょっとしかないスケジュールを踏まえれば、この時点で大きな変更は難しく、このデザインがベースになる可能性は高い。

一方で機能面では早くもソニーらしいアイデアが盛り込まれていた。それがフロントグリル部分に組み込まれた「Media Bar」と呼ばれるディスプレイだ。これは車両側からドライバーへコミュニケーションとして伝え、あるいはドライバーから周囲へコミュニケーション手段として活用するもので、多彩なアニメーションも使うなど新たなスタイルのインフォテイメントシステムとなる。

画像: フロントグリル部分に配された「メディアバー」。様々な情報を外部へ発信することができる。

フロントグリル部分に配された「メディアバー」。様々な情報を外部へ発信することができる。

車内に入り込むと、左右いっぱいに広がるディスプレイがダッシュボードにビルトインされている。臨場感あふれる映像を映し出すほか、VISION-Sのように機能別の分割表示はもちろん、その表示を左右で入れ替えにも対応する。前席には左右とも「360 Reality Audio」が組み込まれ、音の広がりを左右だけでなく上下にまで拡大してより立体感のあるサウンドが楽しめるのも見逃せない。

さらに運転席のステアリングは、自動運転を想定した車両によく見られる「ヨーク型」とした。これを採用するのであれば、ステアリングは電気信号でタイヤ角を変えるステア・バイ・ワイヤとなる可能性は高い。自動運転への対応は具体的には明らかにされていないが、少なくとも高度なアシストを行う「レベル2+」が搭載されるのは確実。「ホンダセンシング・エリート」による「レベル3」が実現される可能性も十分ある。

そして、ソニーが得意とするセンサーは安心安全の実現に向けて計45個のセンサーが車内外に搭載された。中でもそのうち23個はソニーがもっとも得意とするイメージセンサーで、ここで得た信号を高度に処理するのが米クアルコム社製EV向けチップセットプラットフォーム「Snapdragon Digital Chassis」だ。800TOPSという圧倒的な演算能力を持ち、OTAによるアップデートにより、将来にわたって高度な能力を発揮できるという。

このAFEELAの最初の市販モデルは、2025年前半に具体的な内容を発表し、同時にオンラインでの受注を開始して26年春から発売される予定だ。デリバリーはまず北米からスタートし、日本への展開は26年後半を計画。生産拠点はホンダの生産計画に合わせ、まずは北米の工場で開始し、状況次第では日本での生産もあり得るとした。

得意のイメージセンサーを売りたいがためのスタート

ところで、どうしてソニーはEVの開発を手掛けることになったのだろうか。ここからはその経緯についてレポートしたい。

これまでソニーが展開する車載事業と言えばカーオーディオが中心だった。この世界ではブランド力の高さも手伝って、一時は海外市場でパイオニア/JVCケンウッドに続くトップ3の位置にいたこともあるほどの人気だった。

しかし、そのソニーも自動車部品を共有するサプライヤーとしては、なかなか活躍する場を見出せないでいた。同じ家電業界のパナソニックがバッテリーをはじめ、多彩な車載事業に進出して成功を収めたのに対し、ソニーはずっと後塵を拝していたのだ。

そんな中でソニーが車載事業に展開できる唯一の強みがイメージセンサー事業だった。実はソニーはこの事業で世界シェアの半分近くを占めるトップメーカーで、これは主として民生用カメラやスマートフォンなどで使われているものを指す。センサーに対する技術力にも長け、センサーの高感度化に効果を発揮する裏面照射型CMOSは「STARVIS」として多くのドライブレコーダーに採用されるまでになった。

しかし、この技術が車載事業に展開されるまでには至っていない。この世界では米国「オン・セミコンダクター」が圧倒的シェアを持ち、民生用でこそ圧倒的強さを誇るソニーでさえこの分野では1割にも満たないのだ。その理由として、車載事業では何よりも民生用とは桁違いの高い信頼性が求められることがある。つまり、民生用でいくら実績を積んでいても、それが車載事業で求められる信頼性とはレベルが違うということだ。

それはかなり深刻だったようで、過去にイメージセンサーの開発者の話によれば「テストサンプルのチェックさえもしてもらえないほどだった」という。このことからソニーは、センサーの信頼性は自ら築き上げることが重要と判断。意を決してEVコンセプトカー「VISION-S」の開発をスタートさせることにしたのだ。

ホンダからソニーに持ちかけたワークショップが契機

そして、ソニーは2020年に開催されたCES2020のプレスカンファレンスでこのコンセプトカーを初披露。当初はあくまでイメージセンサーのデモが目的だったが、「ソニーがEVに参入するのか?」と世界中で話題が先行。「これを契機にEVへの本格参入を意識し始めた」とソニー・ホンダモビリティの川西 泉社長は当時を振り返る。

ただ、「VISION-S」は完成車の生産を請け負うマグナ・シュタイヤーが担当していたが、量産するとなれば自動車の量産ができるパートナーとの提携は欠かせない。そんな矢先の2021年夏、将来のモビリティの姿を模索していたホンダがソニーに新たな価値を生み出すためのワークショップの提案を持ちかける。その効果は想像以上に大きかったようで「化学反応のように様々なアイディアが生み出されるようになった」(水野会長)という。

画像: 2020年に開催された「CES 2020」で披露されたソニーのEVコンセプト「VISION-S」。その完成度の高さに誰もが驚いた。

2020年に開催された「CES 2020」で披露されたソニーのEVコンセプト「VISION-S」。その完成度の高さに誰もが驚いた。

これがきっかけとなり、三部社長はソニーの吉田社長に共同事業を提案。ソニーとしてもパートナー探しで壁にぶつかっていたこともあり、この話はまさに渡りに舟。話はトントン拍子で合弁会社設立に至ったというわけだ。

とはいえ、ソニーにとって人の命が関わる自動車分野への進出は未知の領域であることは間違いない。この領域で経験値が高いホンダとの協業は、ソニーにとっても大きなプラスとなるのは確実だ。安心安全の走行を実現しながら、ソニーが提供する多彩なコンテンツをどう楽しませてくれるのか、2025年の登場を心待ちにしたいと思う。(第2回へ続く)

●著者プロフィール
会田 肇(あいだ はじめ)1956年、茨城県生まれ。大学卒業後、自動車雑誌編集者を経てフリーとなる。自動車系メディアからモノ系メディアを中心にカーナビやドライブレコーダーなどを取材・執筆する一方で、先進運転支援システム(ADAS)などITS関連にも積極的に取材活動を展開。モーターショーやITS世界会議などイベント取材では海外にまで足を伸ばす。日本自動車ジャーナリスト協会会員。デジタルカメラグランプリ審査員。

This article is a sponsored article by
''.