創造性は、美は日本人の心の中にある
今日のクルマづくりは、機能性、人間工学、経済的価値などに加えて、先進技術の採用や規制対応などで、デザイン開発はますます複雑になっているとジウジアーロ氏は言います。ちょうど、「スキーで障害物をうまく避けながら滑走するように、そうした課題をひとつひとつクリアしながら、自分の創造性を世の中に示していってほしい」とマエストロは、現役のデザイナーに向けてエールを送りました。
EVが百花繚乱の最近の中国市場を見ると、空力性能やスペース効率、デジタル技術を追求した結果、どこか似通ったデザインになっていると感じます。将来、自動運転やカーシェアリングが当たり前になれば、人間の感性に訴えかける美や個性を持っていなければ、人がわざわざクルマを買って所有する意味はなくなるでしょう。

トークショーは連日大盛況で、マエストロも感無量の様子だった。

トークショーは連日大盛況で、マエストロも感無量の様子だった。

トークショーは連日大盛況で、マエストロも感無量の様子だった。

2013年に行われた7代目ゴルフのプレス発表会では、「美は日本人の心の中にある」、「美しさとは世の中を良くするもの」というメッセージが、ジウジアーロ氏とワルター・デ・シルヴァ氏(右)からデザイン専攻の学生含む850人の聴衆に向けて語られた。

マセラティジャパンは、マエストロがギア在籍時代にデザインした名車「マセラティ ギブリ」を展示。

ジウジアーロ氏はロータス エスプリやBMW M1(写真)、DMC デロリアンなど1970年代のスーパーカーブームを彩る多くのスポーツカーもデザインした。自身が一番の傑作かもと言うシボレー コルベア テスチュードやアルファロメオ カングーロなどほとんどの作品はこちらのサイトで見ることができる。

第2テーマ展示として「ジーノ・マカルーゾ コレクション」から BMC ミニ クーパーS(1966)、フィアット X1/9アバルト・プロトティーポ(1974)、ランチア ストラトスHF(1976)などの選りすぐりのワークスラリーカーも会場を飾った。

記念すべき10周年に相応しい内容で大盛況だった「オートモビルカウンシル2025」。
「創造性は、芸術や建築だけでなく、身の回りのボトル1個にも宿っている。普段接しているモノから受ける刺激を自分の脳の中に溜めていくことで創造性は育まれる」、「私の仕事も、過去の膨大な蓄積に連なるものであり、それになにかしら付け加えられたとしたら幸せだ」と86歳のマエストロは謙虚に語りました。年齢を重ねても変わらぬ氏の陽気で情熱的な人柄は、世界への尽きることのない好奇心と、「美」を感じる喜びを生涯持ち続けていることから生まれているのでしょう。(了)
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在を経て、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年ヴイツーソリューション)がある。



