20世紀最高のカーデザイナーとして、自動車業界やクルマファンの間で知らぬ人はいないジョルジェット・ジウジアーロ氏が、10周年を迎えたクラシックカーショーである「オートモビルカウンシル2025(4月11〜13日開催)」に来日し、2日間にわたるトークショーで日本のファンの前で自身の作品やデザインへの思いを語りました。ジウジアーロ氏が日本の公の場で姿を見せたのは、2013年に行われた7代目フォルクスワーゲン ゴルフのプレス発表会以来のはずで、当時フォルクスワーゲンジャパンの広報責任者だった筆者がその時に聞いた話の内容も交えながら、語られた言葉の意味を紐解いてみたいと思います。(タイトル写真:マエストロと日・伊通訳を務めたカーグラフィック編集長の小野光陽氏。写真:荒川正幸)

マエストロの心のうちには絵師がいる

生涯で300車とも言われるクルマをデザインしたジウジアーロ氏に、「自動車には2つのヘッドライト、吸気口など必要な機能があり、パッケージングなど物理的制約がある中で、どうしてそれだけ多くの異なったデザインが作れるのでしょう」と筆者は尋ねたことがあります。それに対してマエストロは、「人間の目は2つ、鼻と口は1つずつだが、どれひとつとして同じ顔はないでしょう」と答えました。肖像画を描くときは、顔のパーツのミリ単位の差異に注目するというジウジアーロ氏は、クルマのデザインも「数ミリ単位の数学的な計算を必要とする」と語りました。

ベルトーネ氏がそのデッサン力に驚嘆したというジウジアーロ氏のスケッチは、彩色豊かで背景もしっかり描かれたものが多く、親交のあった映画監督の黒澤 明氏の肖像画(油絵)などの達者ぶりをみると、ファインアーツへの深い思い入れと技量を持っていることがうかがわれます。

7代目ゴルフの発表会では、「一番影響を受けた自動車のデザインはなにか」と質問されたジウジアーロ氏とフォルクスワーゲングループデザイン責任者(当時)のワルター・デ・シルヴァ氏はともに、「シトロエン DS19」だと答えました。DSをデザインしたフラミニオ・ベルトーニ氏は、カーデザイナーであると同時に「彫刻家だった」とマエストロが言葉に力を込めたのを思い出します。

画像: 宇宙船のような空力デザインにハイドロニューマチックサスペンションなどの先進メカニズムを搭載したシトロエン DS19は、アートと工業デザインが融合した傑作。(写真はトヨタ博物館蔵のモデル)

宇宙船のような空力デザインにハイドロニューマチックサスペンションなどの先進メカニズムを搭載したシトロエン DS19は、アートと工業デザインが融合した傑作。(写真はトヨタ博物館蔵のモデル)

This article is a sponsored article by
''.