2025年2月28日にホワイトハウスで計らずもテレビカメラの前で演じられたトランプ大統領とゼレンスキー大統領の応酬に世界は驚愕しました。ウクライナ戦争の停戦が遠のいて大きな落胆と幻滅を経験した米国の同盟国や隣国は、今度は「タリフマン(関税男)」を自称するトランプ大統領の関税政策に右往左往している状況です。3月4日に発動されたメキシコとカナダに対する25%の関税は、翌日にはUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)で非関税となっている自動車製品は1カ月の猶予措置が発表され、翌々日には同協定の対象品全てに猶予が拡大されるという目まぐるしい展開で、産業界や株式市場は混乱しています。果たしてこの関税騒動の着地点はどこなのでしょうか。(タイトル写真は、GMがメキシコで生産するシボレーブレイザーEV)

欧州メーカーは対応を模索。それでは日本はどうか

もうひとつ、4月2日に発表するという相互関税ですが、ここでは欧州や日本、韓国などがどうなるかが焦点です。欧州は輸入自動車に一律10%の関税をかけているので(中国製EVは最大35.5%の追加関税あり)、トランプ政権は同様に10%か、VAT(付加価値税20%前後)も批判しているので25%もあり得るかもしれません。

先週、大型EVのES90の発表会でボルボのジム・ローワンCEOは、米国サウスカロライナ州の工場の生産拡大の可能性に言及しているとおり、欧州メーカーは相互関税をある程度覚悟しているはずです(EUが米国車の輸入関税を下げる可能性もあります)。BMWやメルセデス・ベンツは、サウスカロライナ州やアラバマ州の工場でSUVを生産しており、これら工場の生産能力の拡大は可能でしょうし、ジェッタやティグアンなど米国販売の半分以上をメキシコ工場から輸入しているフォルクスワーゲンもテネシー州の工場の拡充や、サウスカロライナ州に建設中のスカウト(Scout)車の工場を利用する選択肢もあるでしょう。

では日本はどうか。トランプ氏は最近、日本について自動車輸出の問題を取り立てて非難はしていません。日本の自動車輸入関税はゼロですから、相互関税という点から見れば、日本車に追加で関税をかける根拠はありませんが、貿易赤字の点から取引を迫ってくることは考えられます。

日本経済新聞によれば、先週も国防省の次官が、「日本は2027年までに防衛費をGDPの2%に引き上げる計画だが、それでは少なすぎる」と米議会で発言しており、またトランプ大統領も、「日米安保条約は米国が日本を守る片務協定だ」と以前より言っているので、安全保障の分野で負担増を迫るディールをむけてくるかもしれません。

画像: 日本の自動車メーカーはトランプ政権の相互関税を免れることができるか。(マツダは人気の中型SUVを日本で生産し米国に輸出する。)

日本の自動車メーカーはトランプ政権の相互関税を免れることができるか。(マツダは人気の中型SUVを日本で生産し米国に輸出する。)

このように、一見場当たり的に見えるトランプ政策ですが、大局的には、ウクライナについては欧州からは徐々に手を引いて最大のライバルである中国に対峙すべくアジア太平洋に地政学的シフトを行う。メキシコについては、毎年10万人の米国人が中毒で死亡しているフェンタニルの密輸撲滅と、移民の抑制に最大限協力させる。日本については、対中国の橋頭堡としてこのジュニアパートナーを重視するという戦略があるのかもしれません。ロシアと仲良くするのは、プーチン大統領に何か恩義か、美味いビジネスの種があるのか、もしくは中国から引き離す目的か。

いずれにしても就任2カ月足らずで、イーロン・マスク氏を起用したDOGE(米国効率化省)から、ウクライナ停戦交渉や関税騒動まで、連日のようにニュースの一面を独占しており、「米国を再び偉大にする」使命をおびたトランプ氏の虚栄心を満たすには充分でしょう。一貫した理念や倫理観と無縁なトランプ氏に対しては、友人であれ敵であれ、同氏の交渉のテーブルにつく以外、打つ手がないというのは、19世紀以降の西欧民主主義世界の歴史の中で、かつて見ることのなかった異様な光景かもしれません。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年ヴイツーソリューション)がある。

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