新型コンパクトSUVの生産ハブはタイに。ASEAN市場死守に向けた反攻の始まり
かつて「日本車の庭」と呼ばれた、東南アジアの自動車市場の様相が様変わりしつつある。その理由はほかでもない、中国自動車メーカーの進出だ。欧米、とくに米国市場からの実質的な締め出しによって、中国勢の関心は急速に発展している東南アジア市場に向かっている。
BYD、MG、NETAなどが急速にシェアを伸ばしており、その主戦場ともいえるタイとインドネシアでは政府によるEV促進策と現地生産の補助金政策も相まって、中国自動車メーカーのシェアが日増しに高まっている。日本の自動車メーカーも、事業の再編成を余儀なくされているのが実情だ。
この状況のなかで、マツダの発表はかなりアグレッシブなものと言えるだろう。会見の前日、マツダの毛籠勝弘代表取締役社長兼CEOはタイのペトンターン・チナワット首相との会談で、同国に50億バーツ(約224億円)を追加投資し、タイを電動コンパクトSUVの製造拠点として整備すると述べている。
さらに毛籠社長は、「この投資により、タイ国内販売だけでなく日本やASEAN諸国市場への輸出に向けた生産を強化していく。電動コンパクトSUVへの投資はマツダにとって大きな前進であり、『xEV』生産への段階的な移行の始まりだ。今後、年間10万台の生産を目指す」(タイ投資委員会/BIOのプレスリリースより)とも語っており、将来は日本や豪州を含むアセアン地域向けのマツダ小型SUVがタイ生産に切り替わる可能性がある。

タイを訪問したマツダの毛籠社長。ペトンターン・チナワット首相との会談では50億バーツ(約224億円)の追加投資を明らかにするとともに同国で生産する小型SUVのデザインスケッチも手渡した。(画像出典:タイ投資委員会HP.)
未知の電動コンパクトSUVの正体はHEVの可能性が大
今回の発表で、日本のユーザーにとってとくに気になる情報は「新型小型SUV」の件(くだり)だろう。マツダのプレスリリースには新型小型SUVとしか記述されていないが、タイ投資委員会(BIO)が発表したプレスリリースにはより具体的な記述が散見される。
キーワードは毛籠社長が語ったとされる「xEV」だ。毛籠社長は2025年の年頭会見でも「日本とアジアで向けの新しい小型車の開発に取り組む」と語っており、ごく近い将来、電動化技術を採用した新型コンパクトSUVが登場するのは間違いない。
またBIOのリリースには、今回の追加投資が現在「マツダがタイ国内で稼働するにAAT工場(国内外の乗用車・商用車を生産するオートアライアンス)とMPMT工場(エンジンやオートマチックトランスミッションを生産するマツダ・パワートレイン・マニュファクチャリング・タイランド)の主要分野に注力し、将来の電動化製品に対応するための車両生産・組立ラインの強化、エンジン、オートマチックトランスミッション、パワートレイン、バッテリーなどの電動車の主要部品の生産に注力する」と記されている。マツダのマルチソリューション・アプローチに基づき、段階的にタイ工場での生産を電動車へとシフトしていくことになる。いきなりEV生産拠点とするわけではない。
さらに「日本をはじめとするASEAN諸国への国内販売・輸出」も明言されていることから、今後、日本で発売されるコンパクト系の一部車種がタイで生産されることになるのもほぼ間違いないだろう。
その第1弾が「新型小型SUV」だ。下に掲載したのは、毛籠社長とペトンターン・チナワット首相の会見で取り交わされた文書に添えられたスケッチをクローズアップしたものだが、今まで公表されたことのない車種である。画像は不鮮明だが小柄なSUVであり、テールパイプが存在しているようにも見える。EVなのかHEVなのか、それとも両方存在するのか。いずれにせよ、コンパクトな電動SUVが近い将来発表され、それは日本にも上陸する可能性が非常に高い。

限界まで拡大するとこんな感じ。フロントマスクは不鮮明だが最新のCXシリーズに通じている一方で、リアまわりは現行マツダSUVクロスオーバーには見られない新しいデザインだ。
2年以内に全貌が明らかに。デビューはバンコク国際モーターショー2026か?
マツダは今回の会見で、2025年から2027年にかけてタイ市場に5車種を導入する計画も発表している。内訳は、EVを2車種、PHEVを1車種、HEVを2車種で、いずれも電動車だ。
そのうちの1台は、マツダと長安汽車(重慶長安汽車股份有限公司)の中国合弁企業である長安マツダ汽車が生産する「マツダ 6e(MAZDA 6e)」であり、タイ市場では2025年中の投入を予定している。同車は中国でEREVモデル(PHEVモデル)もラインナップしているので、上記計画にあるPHEVとはマツダ6eのEREV仕様を指している可能性はある。また、2026年には長安マツダ汽車が新たな大型SUV(EVとEREV)の発売を予定しており、こちらがタイ市場にも投入される可能性はある。

長安マツダ汽車が生産するEVセダンの「マツダ6e」をタイ市場にも投入。中国ではEREV(PHEV)モデルも発売されている。
残るは、2車種のHEV。そのうち1台は、日本で2025年後半の発表が見込まれる次世代CX-5と見て間違いないだろう。同車には、マツダ独自開発によるストロングハイブリッドシステムが初搭載される。とすれば、残る1台が今回の話題である新型コンパクトSUVということになる。次世代CX-5と同じシステムを採用するかどうかは不明だが、先に紹介したBIOのプレスリリースにも「エンジン、オートマチックトランスミッション、パワートレイン、バッテリーなどの電動車の主要部品の生産に注力する」とあることからも、新型コンパクトSUVはHEVだと予想して良さそうだ。

2026年には中国市場でEV/EREVの大型SUVも発売。こちらがタイ市場にも投入される可能性はゼロではない。(写真はそのコンセプトカー「創(ARATA)」)。
ともあれ、全貌が明らかになるのは2年以内。そのコンセプトモデルがはじめて披露されるのは恐らくバンコク国際モーターショー2026となるはず。日本への上陸も確実視できるだけに、続報が楽しみな1台である。