米国では、2025年2月1日にトランプ大統領がカナダとメキシコからの輸入品に25%の関税をかける大統領令を出したものの、すぐに1カ月延期するなどさっそく予測できない展開で市場は混乱していますが、自動車ディーラーはトランプ大統領下でのビジネスをどう見ているのでしょうか。米オートモティブニュース(AN)が124社の販売店に対して調査した結果や、NADA(全米自動車ディーラー協会)の年次総会に合わせて、AN紙が行った各ブランドの販売店協議会の会長インタビューなどから読み解いてみます。(タイトル写真は、2024年40万台を米国で販売したホンダCR-Vを生産するカナダのオンタリオ州アリストン工場。同モデルの主力生産拠点だがトランプ関税の影響はどうなるか)

マツダは過去最高の42万台を販売

日本車の中で2024年に最も販売台数を伸ばしたのがマツダで、前年比+17%の42万4382台を販売し、過去最高だった1986年の37万9843台を大幅に更新しました。防府工場で生産するラージ商品群のCX-70やCX-90の好調に加え、トヨタと合弁のアラバマ工場で生産するトヨタ式ハイブリッドシステム(THS)搭載のCX-50が好調です。2025年はCX-50だけで10万台の販売を見込み、45万台の販売を目標としています。

マツダの米国での躍進は、デザインや商品力もありますが、過去10年以上にわたり販売インセンティブ(値引き)を抑制し、Retail Evolution(RE)なるプレミアムなショールームを全米7割の店舗に展開して顧客体験の質を高め、ブランド価値を向上させてきたことが大きいでしょう。

画像: 年間2000台以上販売する大型ディーラーが21店もあるのも販売ネットワーク戦略の成果と言えそうだ。写真は全米で300店舗目となるカンサスシティのマツダ(RE)ストア。

年間2000台以上販売する大型ディーラーが21店もあるのも販売ネットワーク戦略の成果と言えそうだ。写真は全米で300店舗目となるカンサスシティのマツダ(RE)ストア。

トランプ関税は影響あるも、EV強制よりはマシ

メキシコの自動車部品サプライヤー協会によれば、カナダとメキシコ製品の輸入に25%の関税をかけると、米国の自動車は3000ドルの価格上昇と年間100万台の需要減の影響が出るそうです。トランプ関税に自動車販売店以上に神経を尖らせているのは自動車部品サプライヤーで、エアバッグ最大手でメキシコとカナダに計6工場を持つオートリブなどの大手部品メーカーは、25%もの関税のコストの吸収は不可能で価格転嫁するしかないと言います。

GMやフォードは、どんな政策にも対応していくと冷静さを保っていますが、Proビジネス(企業や財界優先)のトランプ大統領が、自動車産業に大打撃を与える関税を長期にわたって課すとは考えていないでしょう。3月1日以降に本当に25%の関税が実施されるのか。もし実施された場合、何カ月続くのかなど複数のシナリオを想定して、メキシコやカナダから米国内に生産移管できるモデルなどを検討するなど対応策は準備しているはずです。

トランプ政権内でも、本気で製造業の米国回帰を目指している閣僚やスタッフと、名目上の効果を演出できれば十分と考えている勢力に分かれているようです。最後は大統領自身が、不法移民や麻薬の取り締まり強化ができたとして矛を収めるか、本気でUSへの生産回帰を促すために半恒久的関税を実行するのかを判断するのでしょう。いずれにしても、関税は物価高を加速して家計の負担を増やし、自動車市場を減速させてメーカーや販売店の収益を減ずるという見方は一致しているので、経済が大きなダメージを被ることはやらないと企業も国民も考えているでしょう。

先のANの調査において、全米で30店舗を展開するプレミア・オートモティブグループのCFOのブレット・フドレイ氏は、「過去2〜3年のようにブランドイメージや利益を損なってまでEVを販売するよりは、関税による価格上昇の方がまだ受け入れられる」と吐露しています。3000ドルの価格上昇よりも、EV販売の苦労の方が大きいというのが、大方のディーラーの本音と言えそうです。(了)

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年ヴイツーソリューション)がある。

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