2024年11月5日の米国大統領選挙の結果、ドナルド・トランプ氏が130年ぶりに2期目の防衛に一度失敗した後に大統領に返り咲くことになりました。選挙当日まで、鍵となるスウィングステートを含めて民主党候補のハリス副大統領との大接戦が予想されましたが、蓋を開ければ、ペンシルベニア州やミシガン州などかつて「青い壁(ブルーウオール)」と言われた民主党の牙城を含め7州全てで3ポイント前後の差をつけて勝利しました。隣国メキシコを含め外国からの輸入品に高関税をかける、EV購入支援策を廃止すると主張しているトランプ氏の第2次政権で米国はどのように変化するのでしょうか(タイトル写真は大統領選挙の勝利宣言に登壇したトランプ氏とメラニア夫人。Foxニュース配信動画より抜粋)

もはや「例外」ではないトランプ氏

2016年に大方の予想を裏切ってヒラリー・クリントン氏を破ってトランプ氏が大統領選に勝利したとき、国内外からは大きな驚きと不安を持って迎えられました。トランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)不要論をぶち上げるなど欧州の同胞国家と距離を置き、独裁国家ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記との友好を演出し、気候温暖化防止のパリ条約からは脱退するなど、その自国中心主義は世界から予測不能で危ういと見られました。

しかし、コロナ禍やインフレ、自身の起訴と裁判を経験してなお今回復活を果たしたことで、アメリカ国民の多くが、グローバル経済や人権擁護、民主主義の守護神としてのアメリカよりも、自国の経済やインフレ対策など身近な生活を護る政治を求めていることが明らかになりました。ニューヨーク・タイムズ紙のデイビッド・サンガー記者が書いているように、トランプ氏はもはや「例外」ではなく、アメリカ国民の意思を代表する正当なリーダーとして信任を得たことになります。

ハリス氏の敗因は「経済」が問題だと見抜けなかったこと

7月にバイデン大統領が選挙戦から撤退を発表し、民主党大統領候補としてわずか3カ月半しかなかったハリス氏は、7月の討論会ではトランプ氏を上回るパフォーマンスを見せ、一時は同氏を上回る支持を得ましたが、結局政策のポイントを有権者に伝えきれずに終わりました。女性の中絶の権利を強調し女性票を固めるとともに、高騰する住宅や教育費への支援を訴えて中産階級への支持を伸ばそうと試みましたが、劣勢が伝えられた終盤には、トランプ氏の大統領としての適格性を非難するなどに終始しました。

「機会の経済(Opportunity Economy)」を唱え、全ての人にチャンスが開かれていると希望の政治を語りましたが、自らの機会や希望が閉ざされていると感じるラストベルトの白人労働者層らには届かなかったのです。AP通信の出口調査では4年前の選挙とは打って変わって、年収5万ドル以下の世帯は過半数がトランプ氏に投票しており、ミシェル・オバマ元大統領夫人や、ビヨンセやレディーガガなどのセレブリティーを総動員しても、目の前の生活の困難の抱える中間層には響かなかったようです。

ウオール・ストリート・ジャーナル紙は、ハリス氏の敗因は、国民の最大の関心が経済であることを把握し切れなかったためとしています。卵のような食料品から1ガロン3ドル台後半で高止まりするガソリン価格、住宅賃貸料や教育費まで全てが高騰し中流世帯の家計を圧迫しています。住宅の取得は、価格の高騰と高金利で過去30年間で最も困難になっており、例えばミシガン州の人口7万人の小都市カラマズーでも、供給不足で4年間で5割近く高騰した住宅に、世帯年収6万5000ドルの中流家庭が手が出ない状況です。確かに株式市場は続伸し、求人数などの経済指標は好調ですが、その影には日々の生活を切り詰めている市民の深い閉塞感があるのです。有権者の関心は「経済」が第一であり、その点でトランプ氏の政策への期待はハリス氏を大きく引き離していました。

画像: 母校のハワード大学で支持者に敗戦の弁を述べるハリス氏。自由と正義、憲法と民主主義の理念を守る戦いは続くと立派に締め括った(ABCテレビ配信動画よりキャプチャ)

母校のハワード大学で支持者に敗戦の弁を述べるハリス氏。自由と正義、憲法と民主主義の理念を守る戦いは続くと立派に締め括った(ABCテレビ配信動画よりキャプチャ)

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