リマックのロボタクシーの方が魅力的?
サイバーキャブの発表に先駆けて6月に発表されたロボタクシーが、クロアチアのスタートアップ「リマック(Rimac)」の開発した「ヴェルヌ(Verne)」です。2011年に設立された同社は、2000馬力を超え最高速412km/hのハイパースポーツEV「ネヴェーラ(Nevera)」を限定生産で販売し、2021年にはポルシェの出資の下にVWグループのスーパーカーブランド「ブガッティ」を傘下に収めて注目される企業です。ヴェルヌもサイバーキャブと同様2シーターでハンドルのない車両でありながら、その考え方は随分と異なっています。
ユーザー体験が第一と考えるヴェルヌは、「Room on Wheels」を車両コンセプトに掲げ、ロールス・ロイス並みの上質で快適なユーザー体験を手頃な価格で提供するとしています。2026年から本国クロアチアの首都ザグレブを始め、イギリス、ドイツ、中東などの12都市で運行する契約を結んでおり、使用形態もウーバーのようにタクシーとして利用するだけでなく、サブスクリプションや長期の保有も可能とすることで、ユーザーのセカンドカー、サードカーとしての利用も視野に入れています。500台に1カ所の割合で「マザーシップ」と称するサービス基地を設け、車両の充電や清掃、メンテナンスなどを行います。既存の公共交通機関と競合するのではなく、それらと共存することで「都市型自動モビリティエコシステム」を確立することを目指しています。サイバーキャブと比べると、ヴェルヌの方がコンセプトも車両デザインもユーザーに寄り添ったものに思えます。
AIとオートノミーの未来を予見するテスラ
テスラはサイバーキャブを「AI on Wheels」と呼んでいます。カメラセンサーや搭載されるAIはオプティマスでも共通であり、まさにAIと「オートノミー」の世界を見据えてクルマも人型ロボットも開発しています。マスク氏は、サイバーキャブのコンピューティングパワーの余力をアマゾンのクラウドなどに接続する構想も口にしており、単なるライドサービスを超えた「AIビークル」を想定していると言えるでしょう。
サイバーキャブは、「小型で安価なテスラEV」や日本のAnycaのような「マイカーたまにシェアして小遣い稼ぎ」といったスタイルを考えていた人には期待はずれでした。マスク氏が言うように、もはやテスラは自動車メーカーとしてではなく、AIやソフトウェア会社と見る方が妥当かもしれません。世界の超一流の頭脳が凌ぎを削るAI開発でテスラがリードし、「AIビークル」や「ヒューマノイド」といったモノづくりに活かすことで、自動車においてもスマートフォンにおけるアップルのようなチャンピオンになれるかが問われているようです。(了)
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。