2025年のCO2排出規制の延期を望む自動車メーカー
口火を切ったのは9月13日のブルームバーグ通信で、ACEAのEUに対する要望書(ドラフト)が、2025年から乗用車で1キロ走行あたり93.6g/kmに厳しくなるCO2排出基準が適応されると、自動車メーカーは全体で130億ユーロ(2兆円)の罰金を支払うか、200万台のエンジン車の生産を放棄するしかないと訴えていると報道しました。意図的なリークとも言われ、ACEAは12日にそのホームページで、充電インフラや政府支援の不足でEV販売が低迷しており、先週発表されたEUの「競争力レポート(competitiveness report)」でも、「気候政策と産業政策の不一致が明らかな例」として自動車産業を名指していることを挙げて、「柔軟な対応」を求めていました。19日には正式に2025年の排出基準の緩和策と、2026〜2027年に予定されているCO2排出規制の法律そのもののレビューの前倒しを要請しました。同時に発表した8月の欧州の販売実績では、EVの販売台数がドイツやフランスの大幅減により前年同月比43%も減少し、1〜8月でも8.4%のマイナス(シェア12.9%)になっていると事態の深刻さを強調しました。
昨年の自動車メーカー平均の排出量(乗用車)は106.6g/kmですが、基準値は各メーカーの平均車両重量によって異なり、フォードやVWなどは特に2025年の達成が危ぶまれています。オートモティブ・ニュースの報道によれば、VWの監査役会の会長を2015年から務めるハンス・ディーター・ぺッチュ氏も11日のウィーンでの講演で、「EV販売の現実に鑑みて時間を猶予すべき」と述べたということです。
欧州の環境ロビー団体であるTransport & Environment(T&E)は、これにすぐさま反応し、「2025年の基準値は2019年に決まったもので、自動車メーカーは何年も準備する期間があった。過去2年で130億ユーロの利益を得てきた業界の延期の主張は馬鹿げている(absurd)」と強く反発しています。同団体は、来年にかけて2万5000ユーロ以下のEVが複数発売され、(プラグイン含む)ハイブリッド車の貢献もあって目標の達成は可能であるとし、最悪テスラやボルボなどEV中心のメーカーと組む「プール」制度を使えば出来ると主張しています。また、2022年にACEAから脱退したステランティスのカルロス・タバレスCEOも、「何年も準備期間があったのであり我々は準備ができている。延期すべきでない」と発言しています。
EU最大市場のドイツで今年(1〜8月)のEV販売が−32%と低迷しており、近々25,000ユーロ以下のEVモデルを発売できるのは、ルノーやステランティスと中国勢なので、T&Eが主張するように今年13%に低迷しているEVシェアが20〜24%に上昇するという見立てはかなり楽観的だと思われます。一方で、今から2025年規制を延期するには、ウクライナ戦争やコロナパンデミックの時のように法の緊急条項の発動が必要とのことなので、EU委員会が簡単に応じるとは考えにくいのも事実です。今週初めの報道では、EU委員会の報道官は延期の可能性を一蹴したと伝えられています。ドイツ政府の昨年末の購入補助金終了を欧州のEV失速の主要因に上げるドイツの調査機関は、規制の延期でなく、2026年以降に規制値を下回った場合、初年度の不足を相殺するなどの措置を検討すべきと言っています(93.6g/kmの基準は2029年までの5年間続き、2030〜2034年は49.5g/kmとなる)。