中国製EVへの相殺関税も決定に向け交渉が最終局面
7月から従来の10%の輸入関税に加えて最大38.3%の暫定相殺関税が発動された中国製EVについては、自動車メーカー側からの追加情報の申し立てなどで、テスラが7%、ボルボやポールスターの親会社である吉利汽車が19.3%、「協力的でない」部類の上海汽車も35.3%まで調整されたようですが、当初から反対のドイツに加え、先ごろ中国を訪問したスペインのペドロ・サンチェス首相が(同国の中国への主要輸出品であるポークで手打ちがあったのか)ここに来て追加関税を再考すべきと発言するなどまだ流動的な要素があります。中国政府も、ブランデーや乳製品などへの追加関税を報復措置として検討しており、商工大臣が今週も欧州を訪問し、EUの産業大臣だけでなくイタリアやドイツとも個別会談するなど、阻止に向けて活発に動いています。また、中国に年間60億ユーロ以上の高級乗用車を輸出しているドイツには、EUに働きかけるように圧力もかけているようです。
早ければ今月末にも加盟国による投票が行われ最終決定する見込みですが、EU27カ国のうち15カ国以上、人口比率で65%の反対がない限り、EU委員会の仮決定が最終決定となります。7月に行われた匿名の参考投票では、反対4カ国、棄権11カ国で(ドイツは棄権)で、仮にドイツやスペインに加え、ボルボの本拠地スウェーデン、BYDが現地生産工場を建設中のハンガリーなどが反対しても、覆すのは容易ではなさそうです。
中国製EVへの関税について、8月の決算会見の質疑で聞かれたVWのブルーメCEOは、自身も深く関与していると述べた上で、EU域内に投資する企業は優遇するなど、相互に経済や雇用を促進するようなルールを提案していると話しました。想像の域を出ませんが、例えばEU内で生産する中国メーカーには、追加関税を減免するなどの策を組み込む余地があるのかどうか。中国側がドイツにEU内での影響力を行使するように求めており、土壇場でドイツが何らかのアクションを起こす可能性はありそうです。
ドイツ自動車メーカーの中では一番順調に見えたBMWも、先週ブレーキシステムの不具合で全世界150万台のリコールを発表し、今期の営業利益率の見通しを従来の8〜10%から6〜7%に引き下げるという躓きがありました。生産能力の調整が待ったなしのVWやEV販売が低調なメルセデスなどドイツメーカー各社は、自社の経営の舵取りとCO2規制や追加関税といった政治的問題の対応に追われる日々がしばらく続きそうです。(了)
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。