液系リチウムイオン比で40%軽くて、33%小さい
全固体リチウムイオン電池、なかでも車載用(EV用)は日米欧韓中の関係業界が次世代電池の覇権をめぐり熾烈な開発競争を繰り広げている。トヨタを筆頭とする日本勢がリードしているのは間違いないものの、欧米韓メーカー、そして国を挙げて開発を加速させている中国勢もその背後に迫っている。
ファクタリアル社は米マサチューセッツに本拠を置くEV用車載電池開発のスタートアップ企業だが、メルセデス・ベンツ、ステランティス、LGエナジーソリューションとパートナーシップを締結しており、今後各社へ全固体電池および関連技術の提供が見込まれている。
今回発表されたのは、メルセデス・ベンツとの共同開発から誕生した次世代EV用の全固体電池セルであり、「Solstice(ソルスティス)」と名付けられた。エネルギー密度は450Wh/kgで、一般的な液系リチウムイオン電池の1.7倍近い。摂氏90度でも安定した性能を発揮するので冷却システムの簡素化が可能になり、同クラスの液系リチウムバッテリー搭載車と比較して重量を40%低減、サイズは33%コンパクト化できるという。
これは、結果的に車両の総重量を抑え車両価格が抑えられることを意味する。9月10日に配信されたロイターの記事によると、メルセデス・ベンツの最高技術責任者あるマルクス・シェーファー氏は、「エネルギー密度を向上させるということは、より軽量なバッテリーを使用することができるということであり、車体に使う高価なアルミニウムを安価なスチールに置き換えることも可能になるということ。つまり、EVはより安価な自動車になる可能性がある」とコメントしている。
この新開発全固体電池が搭載される車種や実用化の時期について明言されていないが、すでにその試作品(B-Sampleと呼ばれている)は今年6月にメルセデス・ベンツに納入されている。今ごろはドイツ本国で実車に搭載されてさまざまなテストが行われているだろう。ファクタリアル社では、メルセデス・ベンツ側の体制が整い次第、量産に移る準備に入っているという。そしてそれは、“2020年代末までに”と付け加えている。
全固体電池がEV用電池サプライチェーン再編の契機に
日本ではトヨタが2027年、日産とホンダが2028年に量産車に全固体電池を搭載する計画を発表している。去る9月6日には経済産業省による「蓄電池に係る供給確保計画」が発表され、国が全固体電池を含むEV用次世代バッテリーの開発/生産に大規模な助成を行うことが明らかになったばかりだ。
車載用電池をめぐる開発競争は、中韓に依存していたバッテリーサプライチェーンの再編につながる可能性が高そうだ。これに関税の問題なども重なり、複雑な様相を呈している。次世代バッテリーはEVに限らず我々の生活を大きく変えるかもしれず、今後の動向には注視しておく必要がありそうだ。