2024年7月25日(現地時間)、ポルシェAGは2025年内にEVモデルとして発表される第4世代カイエンの開発進捗を明らかにするとともに、V8ツインターボエンジンおよび同プラグインハイブリッド(E-ハイブリッド)搭載車を2030年以降もEVと並行して販売すると発表した。(タイトル写真は第4世代カイエンEVのプロトタイプ)

ポルシェはV8ツインターボの存続を決意

ポルシェのハイエンドSUV、「カイエン」の次世代モデルの開発は順調に進んでいるようだ。第4世代は、かねてより完全なEVになるとアナウンスされていた。アウディと共同開発されたプレミアムEV専用のPPEプラットフォームは、すでに新型マカンやアウディQ6e-トロンに採用されているが、次世代カイエンも800VのPPEアーキテクチャーをもとに開発されている。最終的な発表に向けてすでにプロトタイプが公道でテストを開始しており、今後、世界中で過酷な気候や地形を含む延べ数百万kmに及ぶ実走テストに出発するという。

このアナウンスと同時に発表されたのが、「(第4世代カイエンはEVだけでなく)パワフルなハイブリッドモデルと内燃エンジンモデルの開発を同時に進めています」というメッセージだった。

第4世代カイエンEVは2025年内に発表される見込みだが、内燃機関は今後も改良を進め、EV、V8ツインターボ、同プラグインハイブリッドの3モデルを基本にラインナップを構築するという(ちなみに現行モデルにラインナップされている6気筒エンジンに関しては、今回とくにとくに触れられていない)。

画像: 現行カイエンに搭載される4L・V8ツインターボエンジン。Euro7ほか各種の規制強化に対応しながらあと10年間は生産されることになった。

現行カイエンに搭載される4L・V8ツインターボエンジン。Euro7ほか各種の規制強化に対応しながらあと10年間は生産されることになった。

上述のとおり、次世代のカイエンEVはPPEプラットフォームを採用するので、内燃機関は搭載できない。V8エンジンを載せるならば現行型のプラットフォームを踏襲することになる。2023年に大幅なアップデートが施されたばかりなので、当分のあいだ陳腐化はしないだろう。となれば、カイエンEVの登場とともに、内燃機関搭載車は第3世代のメカニズムをベースに内外装を中心にアップデートを施して、今後も販売を継続することになる。

画像: アウディと共同開発されたPPEプラットフォームはEVに特化。エンジンの搭載は難しい(写真は新型マカンEV)。

アウディと共同開発されたPPEプラットフォームはEVに特化。エンジンの搭載は難しい(写真は新型マカンEV)。

2030年電動化率80%の方針は変わらず柔軟に対応か

ポルシェAGのオリバー・ブルーメCEOは「2030年には新車の80%以上を完全に電動化することができます。これはお客様の需要と世界の地域でのエレクトロモビリティの発展次第です」と、従来の戦略の根幹にブレはないものの、ある種の“マルチパスウェイ戦略”への変化を匂わせている。

また、「ツッフェンハウゼンエンジン工場で製造されたV8エンジンの効率を向上させることに焦点を当てています。広範な技術的対策により、ツインターボエンジンは将来の法的要件に準拠する準備ができています」とコメントしている。

画像: 現行カイエンのV8ツインターボPHEV(E-ハイブリッド)システム。

現行カイエンのV8ツインターボPHEV(E-ハイブリッド)システム。

“2030年”というのは、ポルシェが打ち出している電動化戦略(2030年に新車販売の80%をEVとPHEVにする計画)を指す。上述の新型マカンは、一部地域では2026年まで内燃機関を搭載した旧モデルも併売されるが、以後はEVモデルのみになる。そして今年中の発表が見込まれる新世代718ボクスター/ケイマンもまたEVモデルとなり、旧モデルがしばらく併売されたのちに、完全なEV専用車になると言われている。

画像: 「2030年の電動化率80%達成は可能」と語るポルシェAGのオリバー・ブルーメCEO。とは言え「顧客の需要や世界の各地域におけるエレクトロモビリティの普及に応じて」と含みをもたせている。

「2030年の電動化率80%達成は可能」と語るポルシェAGのオリバー・ブルーメCEO。とは言え「顧客の需要や世界の各地域におけるエレクトロモビリティの普及に応じて」と含みをもたせている。

対してカイエンには、少なくとも今後10年は内燃機関を残すことが宣言された。さらにブルーメCEOは「2030年代には、パワフルで効率的な内燃エンジンモデルおよびハイブリッドモデルを多数ラインナップする予定です」と語り、かつて宣言された電動化戦略を堅持しつつもその内容が見直されつつあることも示唆している。マカン、718ボクスター/ケイマンは、EVモデルとともに内燃機関を搭載した旧モデルの併売期間が当初の計画より延びる可能性もあるようだ。

画像: EVに生まれ変わった新型マカン。ガソリンエンジン搭載車も一部の国と地域で2026年前後までEVと併売される。

EVに生まれ変わった新型マカン。ガソリンエンジン搭載車も一部の国と地域で2026年前後までEVと併売される。

同様のアプローチはアウディも採用しており、新たに登場するEVのモデル名は偶数、内燃機関搭載車は奇数を充てたうえで事実上併売される(たとえばQ6 e-tronと今秋発表される新型Q5、近日中に発表されるA6 e-tronと7月16日に発表された新型A5など)。EVはPPEだが、内燃機関搭載車はエンジンを大幅にブラッシュアップするがプラットフォームは前型の改良版だ。

画像: 新型アウディA5(旧A4)。新たにMHEV化されたエンジンをラインナップするが、プラットフォームはA4の改良型。まもなく発表されるEVモデルの「A6 e-tron」はPPEプラットフォームを採用する。

新型アウディA5(旧A4)。新たにMHEV化されたエンジンをラインナップするが、プラットフォームはA4の改良型。まもなく発表されるEVモデルの「A6 e-tron」はPPEプラットフォームを採用する。

PHEVを売ってEV開発の原資を稼ぐ戦略か?

最近の欧州メーカー各社は、EVシフトのペースが予想より遅いことから戦略の見直しを迫られている。アウディやステランティスはいち早く手を打ち、電動化を進めつつ内燃機関搭載車も設定している。メルセデス・ベンツは掲げていた「2030年の新車販売完全EV化」を撤回して、新型エンジン搭載車を2027年に発売するほか2030年以降も複数の内燃機関搭載車を投入すると発表した。今後、BMWグループやルノーにもなんらかの動きがあるかもしれない。

2023年3月、欧州委員会は、“2035年のエンジン車全廃”から合成燃料または水素を利用する場合に限り販売を容認する改正法案を採択した。とは言え、現状では2035年というリミットが根本的に覆ったわけではない。

一方で、欧州市場/北米市場ではEVシフトが思うように進まず、各メーカーはEVシフトを進めつつ内燃機関車も並行して販売せざるを得ない台所事情もある。本来ならばEVの開発に原資を集中させたいのがメーカーの本音だと思われるが、 “ガソリン車やPHEVをできるだけ売ってEVの開発原資を稼ぐ”戦略に舵を切り直しているのではないだろうか。その結果、しばらくのあいだは混沌とした状況が続くのかもしれない。もっとも、ユーザーにしてみれば、選択肢が増えるのは悪いことではないが・・・。

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