急速な電動化市場に特化した新EVシリーズ
世界最大の自動車マーケットに成長した中国市場は、いまや新車販売台数の半数近くがEV/PHEVによって占められるようになった。直近ではそのうちの6割がEV、4割がPHEVである。EVシフトが踊り場にあると言われる世界的な自動車市場の動向から見れば、ある意味、“極端”なマーケットになりつつあるとも言えるだろう。
とは言え、世界最大の市場を前に日本の自動車メーカーが指をくわえて傍観しているわけではない。中国市場向けに現地のニーズに応える“中国専売EV”の開発を着々と進めている。すでにトヨタはBYDを始め中国企業とタッグを組んで「bZ3」を発売、まもなくSUVの「bZ3X」も発売する。
ホンダもすでに中国市場向けEVとしては、「e:NS1」、「e:NP1」、「e:NS2」、「e:NP2」を発売しているが、既存の内燃機関車の影響を引きづっている感は否めず、巨大なガラパゴス市場でのプレゼンスは正直あまり高いとはいえなかった。
その反省?を活かした「Ye」シリーズでは、中国専売とすることで日米欧向け車種とは異なる開発アプローチが採用された。
プラットフォームは中国国内で新たに開発されたいわゆるスケートボードタイプであり、さまざまな車両タイプ/大きさ/駆動方式に対応できるスケーラブルなものが採用されている。
これにホンダが長年培ってきた電動化技術を組み合わせることで、短期間で変化する中国ユーザーのニーズに迅速に応えていく。また、現地パートナーと知能化技術を共有してAIを積極的に活用していくこともすでに公表されている。ホンダは今後の中国市場をYeシリーズを核として2027年までに10モデルを投入し、2035年までに全モデルをEV化する計画だ。
この計画を推進するのがYeシリーズであり、その第一弾として2024年末に現地での発売が予定されているのが「Ye S7」である。このたび、東風ホンダがSNS上に新たな画像をアップするとともに、中国の工業情報化部(MIIT)もスペックの一部を公開した。
ボディサイズはテスラモデルYとほぼ同じ
デザインはすでに4月に開催された北京モーターショー出品車と同じである。ボディサイズは全長4750×全幅1930×全高1625mm、ホイールベースは2930mm。人気のテスラモデルYとほぼ同じだ。前述のとおり、中国で開発されたプラットフォームを採用しており、1モーターによる後輪駆動車と2モーターによる全輪駆動車がラインナップされる。
前者は“軽快ですっきりしたハンドリングの実現”、後者は“高出力でありながらも意のままに操ることができるハンドリングを両立”をそれぞれ目指しているという。MIITの公開した資料によれば、RWDモデルのモーター出力は200kW(約272ps)、全輪駆動モデルは前輪に150kW(約204ps)のモーターが追加されるとのこと。バッテリー容量は明らかにされていないが、CATLから調達する三元系リチウムイオンバッテリーが採用される見込みで航続距離は500km以上になる見込みだ。
一方、インテリアにはセンターコンソールを覆う巨大なインフォテインメントタッチスクリーンが鎮座し、運転操作情報を扱うデジタルインストルメントクラスターが控えめにレイアウトされている。“スマホ化”が著しい昨今の中国トレンドを捉えたデザインと言えるだろう。広大なツイングラスルーフも中国では必須の装備となっている。
「Ye S7」の生産はまもなく始まるが、同時期には兄妹車の「Ye P7」の生産も開始される見込みだ。両車はエクステリアデザインやカラーバリエーションに違いはあれど、ボディサイズやメカニズムはほぼ同じだ。
そしてその後にはスタイリッシュな4ドアクーペモデル「Ye GT」も登場する。こちらもYeシリーズの第二弾として2025年中に発売が始まる。昨今は、中国市場で不振が伝わる日系メーカーだが、Yeシリーズの投入開始でどこまでシェア争いに食い込むことができるか、今後の動向に注目したい。