日本最大のEV充電ネットワークを誇るe-Mobility Power(以下、eMP)と急速充電器最大手の株式会社東光高岳(以下、東光高岳)が、CHAdeMO(チャデモ)規格では世界初となる最大出力350kW/口(総出力400kW)の次世代超急速充電器の共同開発に合意、2025年秋から設置を始める。(タイトル写真はイメージ)

保安要件が明確化され450V以下から1500V以下に

去る2024年5月23日、eMPと東光高岳が発表した次世代超急速充電器の共同開発計画は、EV/PHEVユーザー、なかでも今後EV/PHEVの購入を考えているユーザー予備軍にとっては注目すべき報せになった。

開発の背景にあるのは、高効率な800Vアーキテクチャー搭載車などの増加(車載電池の高電圧化)、そして何より経済産業省が「EV充電器に係る保安要件の解釈の明確化」を打ちだしたことが大きく影響している。これまでは“450V以下”と解釈されていたEV急速充電器の保安要件が、“1500V以下”と明確化される見通しとなったためである。

画像: ポルシェタイカン、ヒョンデのアイオニック5やアウディe-tronGT、など800Vアーキテクチャーを採用するEVも増えている。その最大のメリットである充電時間短縮に向けて高出力急速充電器の登場が待望されていた。

ポルシェタイカン、ヒョンデのアイオニック5やアウディe-tronGT、など800Vアーキテクチャーを採用するEVも増えている。その最大のメリットである充電時間短縮に向けて高出力急速充電器の登場が待望されていた。

これにより、次世代超急速充電器は現行型の倍以上となる1000Vの定格電圧が可能となり、400Aの2口機で400kWの総出力(350kW/口)が実現できるようになったわけだ。以下が、現時点で公表されている基本スペックだ。

・最大電圧=1000V
・最大電流=400A
・総出力=400kW(2口) 
・最大出力=1台充電時:350kW/口、2台同時充電時:200kW/口
・CHAdeMO規格:CHAdeMO2.0
・通信プロトコル:OCPP2.0

画像: 2025年春に日本導入されるアウディQ6eTRONも800Vアーキテクチャーを採用する。

2025年春に日本導入されるアウディQ6eTRONも800Vアーキテクチャーを採用する。

出力の向上とともに、充電ケーブルやコネクタが大幅に軽量化されるのも有難い。充電ケーブルは定格電圧1000Vを実現しながら、外径は現状比で10%細くなり、重量も20%軽くなる。またコネクタもおよそ30%軽量化されて1kgに、サイズも300×190mmとコンパクトになる。細径化されたケーブルは地面と接することがない吊り下げ式を採用し、「片手で楽に操作できる」取り回し性の改善を謳っている。

ちなみにeMPは、2024年4月に総出力400kWのマルチコネクタタイプ急速充電器(最大150kW/口)の通称“赤いマルチ”の導入、および既存施設の通称“青いマルチ“に電源盤を拡張した出力アップの改修を行うことを発表している。今回発表された次世代超急速充電器が加わることで、eMPネットワークの高出力化がさらに加速している印象だ。

画像: 2024年度以降に整備が始まるeMPのマルチコネクタ急速充電器“赤いマルチ”。1口あたり最大150kWの出力(4台同時でも最大90kWを維持)。

2024年度以降に整備が始まるeMPのマルチコネクタ急速充電器“赤いマルチ”。1口あたり最大150kWの出力(4台同時でも最大90kWを維持)。

ユーザーの声を反映した新システムの採用も検討

とは言え、350kW出力のメリットを享受できるのは現状では高性能EVユーザーが中心。むしろ、今回の目玉と言えそうなのが、あらゆるEV/PHEVユーザーに向けた利便性の向上だ。

上述のケーブルマネジメントシステムの改良もその一例だが、ほかにもユーザーの声を反映したさまざまな改善策を盛り込むことが検討されている。なかでも目を惹くのが、「時間課金と従量課金の併用」、「放置車両対策」、「ダイナミックプライシング」、そして「プラグ&チャージを視野に入れたセンサーの搭載」である。

【時間課金と従量課金の併用】
一部を除き現在は時間課金が主流。つまり実際に充電した電気の量ではなく、分単位(最大30分)の料金で計算されている。この分単位の課金と、実際に充電した電気の料金(“kWh課金”)を併用することで、不公平感を低減することが検討されている。

【放置車両対策】
充電が終了しているのにドライバーが戻ってこない、というのはしばしば見かける光景だ。その抑止として「ペナルティ課金」機能を採用することを検討している。実現すれば、充電渋滞の解消、そして充電スポットでなんとなく感じる緊張感も緩和されるだろう。

【ダイナミックプライシング】
再生可能エネルギーを積極的に使用して、日/時間帯別料金の導入も視野に。太陽光発電を始め再エネの有効活用として、比較的需要が少ない平日の日中は安価に、逆に発電量の少ない夜間や需要の多い休日の昼間などは料金をやや高めに設定することも検討しているようだ。

【プラグ&チャージ】
プラグ&チャージはすでに欧米や中国で普及しているが、日本ではテスラのスーパーチャージャーにしか導入されていない。カードやスマホ画面を充電器にかざすことなくコネクタを接続するだけで認証/充電そして決済が終了するシステムだが、将来に備えてセンサーを実装する。実際にプラグ&チャージが使えるようになるには車両メーカーの協力も不可欠だが、まずは充電器側がそれに先んじたかたちだ。

画像: コネクタを差し込むだけで認証〜充電〜決済が可能なプラグ&チャージ。現在、国内ではテスラのスーパーチャージャーしか利用できない。

コネクタを差し込むだけで認証〜充電〜決済が可能なプラグ&チャージ。現在、国内ではテスラのスーパーチャージャーしか利用できない。

ほかにも、OTA(オーバー・ジ・エア)機能の搭載によるセキュリティアップデート、ひと目で充電ステーションであることがわかる未来的なデザインやライティングを採用するなど、EVの本格普及に向けたさまざまな改良と機能が盛り込まれるようだ。

今秋にはプロトタイプを公開、2025年3月のCHAdeMO認証取得を経て同年秋には全国で納品/設置が始まるという。長らく停滞していた感もある日本の急速充電インフラだが、矢継ぎ早に施策を披露する最大手eMPの動向からはEV充電インフラの近未来が垣間見える。

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