マルチパスウェイの難しさと必要性
自動車における2050年カーボンニュートラル達成で最も重要となるエネルギー源は電気もしくは水素ではないかと言われているが、ゴールに達するまでの2030年や2040年の途中段階では合成燃料やバイオ燃料の採用、プラグインやフルハイブリッドシステムの進化などさまざまな可能性が検討されている段階である。
また、電動化や次世代燃料の普及度合いは、その国の経済状況や発電環境、政策や国民の思考などによっても異なり、カーボンニュートラル実現という目的のためにクルマの次世代化を一気に推進することはビジネスの観点から見ても難しい。
そうした中、最近よく聞くようになった言葉が「マルチパスウェイ」だ。
例えば石炭による発電が主力の地域でEV化を推進しても、CO2排出量の削減効果は薄くなってしまう。また、水素の原料として注目を浴びているアンモニアを多く生産している国であれば、燃料電池車を導入することの意義も大きくなるだろう。
つまり地域特性や経済状況に合わせたパワートレーン供給が必要だという考えから、自動車メーカーはガソリン(合成燃料)から燃料電池、EVまでさまざまなパワートレーン開発を続け、市場に合わせてラインナップしていくという、まさに全方位型のパワートレーン戦略といえる。
スバル、トヨタ、マツダによる三者三様の路線
これは自動車メーカーにとって莫大な開発費がかかる苦しい戦略であることは目に見えているが、今回、トヨタ自動車と資本関係にあるスバル、そしてマツダはマルチパスウェイでカーボンニュートラルの実現可能性を広げていくことを合同で表明した。
とくにゴールへ向かう途中段階において、駆動用/発電用いずれの用途においてもエンジンが担うCO2削減のための役割は大きく、モーターやバッテリーとの組み合わせで進化させることにより、まだまだCO2を削減できるとしている。
興味深いのはエンジン進化が三者三様だということ。知ってのとおりだが、スバルは水平対向エンジンを、トヨタは直列エンジンを、マツダはロータリーエンジンをそれぞれに独自進化させつつ、電動ユニットと組み合わせることを前提に、エンジンとモーターがそれぞれの得意領域で最適に機能することを目指すとしている。
こうした取り組みはなにもカーボンニュートラル達成のためだけではなく、日本の全就業人口の約1割/約550万人とも言われている自動車産業を支えるサプライチェーンの未来を見据えた戦略でもあり、2010年代からモータースポーツを通じて独自の研究開発が進められてきた分野でもある。e-fuel(合成燃料)やバイオ燃料、液体水素など多様な燃料に対応、供給網を構築することもマルチパスウェイの要素のひとつだ。
「独自の味付け」を昇華させつつ目指す、脱炭素化
つい先日の2024年5月27日も次世代エネルギー普及に向けて、トヨタは関係4社とともに導入シナリオやロードマップ、制度整備の議論と検討を、そして燃料製造の実現可能性についても調査することを発表したばかり。EVや水素自動車に至るまでの「つなぎ」と揶揄されることもあるが、地球環境改善への貢献度の大きさに期待がかかっているのも事実だ。
最後に、合同発表を行った3社のCEOはそれぞれ下記のとおりのコメントを掲載した上で、『3社はエンジンやクルマの「味付け」など商品づくりの分野では「競争」しながらも、マルチパスウェイでのカーボンニュートラルの実現という同じ志の下、エンジンへの想いや技能を持つ仲間とともに日本の自動車産業の未来を「共創」して参ります』と締めくくった。
スバル 大崎 篤 代表取締役社長・CEO
カーボンニュートラル社会の実現は、日本の産業界・社会全体で取り組む課題です。私たちはクルマの電動化技術を磨くと共に、カーボンニュートラル燃料の活用に向けて、水平対向エンジン自身もさらに磨きをかけます。これからも志を同じくする3社で日本のクルマづくりを盛り上げてまいります。
トヨタ 佐藤恒治 代表取締役社長・CEO
カーボンニュートラルに貢献する多様な選択肢をお客様にご提供していくために、未来のエネルギー環境に寄り添ったエンジンの進化に挑戦してまいります。志を共有する3社で、切磋琢磨しながら技術を磨いてまいります。
マツダ 毛籠勝弘 代表取締役社長・CEO
電動化時代における内燃機関を磨き、マルチパスウェイでカーボンニュートラルの実現可能性を広げ、お客様がワクワクするクルマを提供し続けます。電動化やカーボンニュートラル燃料と相性の良いロータリーエンジンを社会に広く貢献できる技術として育成できるよう、共創と競争で挑戦してまいります。