このところ既存のマンションの駐車場に普通充電器を設置する例が見られるようになってきました。とは言うものの、まだまだそうした例は少なく、マンション住まいでEVを買うことにためらいを感じる人は多いでしょう。実際のところどうなのでしょうか。マンション住まいでのEVにはどんな課題があるかを考えてみました。

自宅駐車場に充電設備がないとやはり手間はかかる

マンションに住んでいても、駐車場にEV用の充電設備があれば何も問題はありません。重要なのは、駐車場に普通充電の設備が用意されていることです。ところが、もしも駐車場に充電設備がないというのであれば話が異なります。

まず、駐車場に充電設備がなくてもEVを購入することは可能です。法律的にも制度的にも、何も問題はありません。ただし、充電設備があるときよりも、手間暇、そして費用が余計にかかることを覚悟しなければなりません。

画像: 東京都江東区にある「亀戸レジデンス」では、すべての駐車スペースにユビ電の「WeCharge」による普通充電用コンセントを設置した。既存マンションでもこうした動きが出てきた。

東京都江東区にある「亀戸レジデンス」では、すべての駐車スペースにユビ電の「WeCharge」による普通充電用コンセントを設置した。既存マンションでもこうした動きが出てきた。

手間暇とは、充電設備にクルマを持っていき、そして充電することを意味します。自宅駐車場に充電器があれば、帰宅時に充電用プラグをEVに差し込んでおけば、翌朝にはフル充電となっているはずです。ほとんど手間はかかりません。

一方、自宅駐車場に充電設備がない場合は、定期的に時間を作って、外に充電に出かける必要があります。急速充電は30分単位で行われるため、最低でも30分、必要によっては1時間や2時間も充電が終わるのを待つ必要もあります。自宅に駐車場がない場合は、そうした手間暇がかかるのです。

手間暇に加えて急速充電は普通充電より費用もかかる

また、費用も余計にかかります。自宅駐車場での普通充電よりも、急速充電の方が充電にかかる費用が高いのです。たとえば60kWhのバッテリーを搭載するEVを充電しようというときに、かかる費用を試算してみましょう。

普通充電の電気料金は、契約内容次第で異なります。比較的割高な1kWhあたり40円とすると、60kWh分の電気料金は2400円になります。

一方、急速充電の場合の料金は、施設の1分あたりの利用料金として計算します。いろいろな会社がプランを用意していますが、ざっくりと1分あたり25〜44円といったところ。高速道路のSA/PAなどに設置されている急速充電器は出力50kWが主流となります。理論値で計算すると、50kWで60kWh分を充電するには1.2時間(=1時間12分=72分)となります。最も安い25円の計算であれば1800円で済みますが、44円であれば3168円にもなります。

画像: 大手マンションデベロッパーの大京は、新築分譲マンションに充電設備の標準化を進めている。

大手マンションデベロッパーの大京は、新築分譲マンションに充電設備の標準化を進めている。

実際のところ、急速充電は最初から最後まで50kWで出力されるのではなく、最初は小出力で始まり、徐々に出力を上げて充電を行います。また、電池側も満充電になるに従い、なかなか充電しにくくなります。つまり、理論値よりも実際に充電にかかる時間は長くなります。そのため大抵の場合、同じだけの電力量を充電しても、普通充電よりも急速充電の方が費用は高くなります。

つまり、自宅駐車場に充電器がなくてもEVを買うことはできます。しかし、手間暇がかかり費用もかさんでしまいます。そういう意味で、「マンション暮らしなのですが、EVを所有するのは諦めた方がいいでしょうか?」という疑問には「可能ですけれど、お勧めできません」というのが答えになります。

●著者プロフィール
鈴木 ケンイチ(すずき けんいち)1966年生まれ。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。自動車専門誌を中心に一般誌やインターネット媒体などで執筆活動を行う。特にインタビューを得意とし、ユーザーやショップ・スタッフ、開発者などへの取材を数多く経験。モータースポーツは自身が楽しむ“遊び”として、ナンバー付きや耐久など草レースを中心に積極的に参加。

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