マスコミはその時々の社会問題などを過大に取り扱い、センセーショナルに扱うことがままあります。EVに関する報道はまさにこれで、多くのメディアは1年前と今とでは180度、言っていることが逆のようです。しかし、本当のところ「EVの未来は暗い」のでしょうか。それとも……。

目先の数字に惑わされず、中長期で見る必要がある

ほんのわずか前まで、多くのメディアで「EVシフト」をキーワードに、明日にでもエンジン(内燃機関)がなくなり、EVが取って代わるかのような報道を目にすることがありました。実際に、欧米や中国の政治関係者や自動車メーカーからは「エンジン車は廃止する。これからはEVだ」という声も聞こえてきました。そして、そうした「EVシフト」という追い風にあわせて、EVの販売台数も伸びて来ました。

ところが、昨年の後半から、EVの伸びは鈍化してしまいました。これは欧米だけでなく中国でも同様です。そして、「EVが減速」という報道が出るようになったというのが現状です。

EV販売の伸びが鈍化したのは、いろいろな理由が考えられます。補助金の減少や需要の一巡などもあるでしょう。また、期待をこめてEVを購入したのに満足できなかったというユーザーの失望もあったかもしれません。まだまだEVは発展途上の製品だからです。

しかし、EVの販売が鈍化したからといって、「これで終わり」となることはありません。社会全体の大きな目的はカーボンニュートラルです。これを実現するには、エンジン車だけでは達成できません。適切なEVの普及が必要です。そのため、販売が鈍化しようとも、将来に向けてEVをなくすわけにはいかないのです。

カーボンニュートラルはクルマの一生で考えるもの

ただし、気を付けて欲しいのは、カーボンニュートラルに至る道は、ひとつではありません。エンジン車をやめてEVにすれば、カーボンニュートラルが実現するわけではないのです。

原材料から製造、使用、廃棄まで、クルマの一生涯を通じてのカーボンニュートラルが目標となります。もしも、カーボンニュートラルな液体燃料「e-Fuel」ができあがればエンジン車(内燃機関)を廃止する必要はありません。発電時に火力でCO2を大量に排出するようではEVでもカーボンニュートラルになりません。

画像: EVと住宅で使うエネルギーをトータルでマネジメントする取り組みも進みつつある。カーボンニュートラルのための一手であり、こうした点でもEVの将来にかかる期待は大きい。

EVと住宅で使うエネルギーをトータルでマネジメントする取り組みも進みつつある。カーボンニュートラルのための一手であり、こうした点でもEVの将来にかかる期待は大きい。

目的はカーボンニュートラルであり、脱エンジンではないのです。EVはあくまでもカーボンニュートラルの手段のひとつにすぎないのです。ですから、「昨年より売れたから、これからはEVだ」、「昨年ほど売れなかったから失速した」という、目先の数字で一喜一憂する必要はありません。

今、EVが売れないというのであれば、それはEVの商品力が低いということで、EVの普及が時期尚早というだけです。どんな製品も商品力が高まれば、勝手に普及するものです。逆に言えば、普及しないのは、商品力が低いということ。商品力が高まるのを待ちましょう。それがユーザーの正しい姿勢なのではないでしょうか。

●著者プロフィール
鈴木 ケンイチ(すずき けんいち)1966年生まれ。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。自動車専門誌を中心に一般誌やインターネット媒体などで執筆活動を行う。特にインタビューを得意とし、ユーザーやショップ・スタッフ、開発者などへの取材を数多く経験。モータースポーツは自身が楽しむ“遊び”として、ナンバー付きや耐久など草レースを中心に積極的に参加。

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