PHEVのCO2排出量の矛盾はこれまでも調査機関が指摘
PHEVが実際には認証値を大幅に上回るCO2を排出しているという主張は、これまでもベルギーの本拠を置く環境NGOであるT&E(Transport & Environment)や、フォルクスワーゲンのディーゼル排ガス不正事件の発端となるテストを行ったICCT(※1)などの検証でも指摘されていました。例えばT&Eは、2023年初めにオーストリアのグラーツで、BMW3シリーズ、プジョー308、ルノーメガーヌのPHEVの市街地走行(55km)テストを行い、EVモードでの走行可能距離はメーカーが主張するレンジの5〜8割程度であったり、バッテリー残量ゼロで走行すると認証値の5〜7倍ものCO2を排出しており、PHEVへの政府の補助金は廃止すべきだと提言していました。※1:International Council for Clean Transportation. 米国で2001年に設立された国際的な環境・エネルギー調査研究NGO
今回のEUの発表は、いみじくもこれらの先行する調査を裏付ける形となり、欧州で販売されているPHEVモデルの認証値の平均CO2排出量が39.6g/kmのところ、2021年に登録されて路上を走った車のデータでは139.4g/kmと3.5倍も排出されていたことが判明したのです。
実際はEVモードでの走行はずっと少ない
PHEVのCO2排出量を決めるにあたっては、バッテリーの電気を使用して(charge depleting)走行する割合をどの程度と見るかというUF (Utility Factor−ユーティリティファクター)の設定が重要な役割を果たします。現在(2021〜2024年)のEU基準ではこれを70〜85%と高い比率で見ていますが、実際には個人ユーザーは45〜49%、企業フリート(社用車)のドライバーは10〜15%しかEV走行していないとICCTは2022年に指摘しています。現在の欧州でのPHEVの顧客の70%は企業向けフリートなのでこの乖離は重大で、PHEVは実際には認証値の3〜5倍ものCO2を放出していることになります。この問題に対応するため、EUはUFを約50%に厳格化して個人向け車両には2025年から適用、2027年には法人向け車両も含めてさらにUFの改訂を行う予定です。
EUによるリアルワールドデータの収集は今回が初めてで、サンプル数は2021年の全乗用車の登録台数の7.2%に過ぎないためデータの精度には改善の余地があるとしていますが、これまで民間の調査機関で指摘されたPHEVの実際のCO2排出量が明らかになったことは大きな意味がありそうです。
EUのCO2排出規制では、乗用車のCO2排出量は現在の115g/km(以前のNEDCサイクルでは95g/km)から2025年以降93.6g/kmに厳しくなりますが、これと同時にPHEVのUFも大幅に下がるため、自動車メーカーはこれをクリアするのは特に初年度は大変です。2025年からの達成が難しいとBMWやVWのトップが公言しているのはこうした事情があります。