4月2日に発表された2024年の第1四半期(Q1)のテスラの販売台数はアナリストの予想を大幅に下回る38万6000台にとどまりました。前年同期比8.5%の減少で、四半期の販売台数の減少は2020年Q2のコロナパンデミック到来時以来となります。43万台程度を予想していた株式市場では、1日でテスラ株が165ドルまで5%以上下落しました。テスラは自動運転(FSD)ソフトを期間限定で無償提供したり、ネット広告で購買者の歓心を引こうと懸命ですが、果たして再び成長軌道に乗ることができるでしょうか。(タイトル写真は「テスラ モデルS」)

鈍化の原因は製品の陳腐化

競争の激化とともに、テスラの販売失速の原因は製品の陳腐化です。モデルYとモデル3で販売(昨年180万台)の95%を占めており効率的ですが、いずれも導入から4〜6年を経過しており、新鮮味を失いつつあるのは否めません。昨年一部改良した新型モデル3も目にみえる部分はほとんど変わっておらず、「乗り心地の大幅な改善は認められるも、車内の機能のほぼ全てをセンターパネルの操作によるインターフェイスの不便さ」を米消費者雑誌のコンシューマーレポートは指摘しています。シンプルすぎるインテリアは好みが別れますし、空力を追求した外観デザインも際立った特徴がないと感じる人もあるでしょう。

車種構成も、先行したモデルSやモデルXは8万ドル以上と高価格で販売台数は少なく、昨年末に発売したサイバートラックも当面の生産は僅少のようです。通称「モデル2」として開発中のコンパクトEVは、「アンボックスド・プロセス」という革新的な製造方式でコストを5割削減するようですが、25,000ドルからと言われるこのモデルが本格的に販売されるのは2026年以降になります。

マスク氏の政治的発言も影響

さらにニューヨーク・タイムズ紙などが指摘するのは、かつては民主党支持だったマスク氏が、近年は買収したSNSの「X」において保守的な言動を繰り返し、国境の壁強化やD&I(多様性と包括性)への当て擦りなどで物議を醸し、EV支持の多いリベラル層の反発を買っていることです。テスラは時にMusk & Co.とも言われるように、マスクCEOの評価がそのまま会社の評価に直結する側面を持ちます。マスク氏のイメージや世評がテスラの株価や将来像に少なからぬ影響を与えています。

テスラは、EVのライバルの台頭に対抗するため、昨年来何度も値下げを行って販売量を確保してきました。しかし、度重なる値下げは車両の再販価値を毀損し、同社の利益率にも影響しており、一時は20%を超えていたマージン(営業利益率)は、2023年は8%台と普通の自動車メーカー並みになりました。

かつてはマスク氏の眼中になかった宣伝広告も昨年から少しずつネットを中心に始めており、最近の米国のCMは、車内でゲームに興じる子供の様子など、アメリカのファミリー層に訴えるありふれた内容です。また、12,000ドルのオプションとして北米のみで提供されているFSD(フルセルフドライビング)を4月末まで1カ月間無料でお試しのプロモーションも始めています。

画像: 広報部のないテスラのメディア用フォトは貧弱だったが、最新のモデル3ではペットや家族の団欒の写真も提供するようになった(写真:テスラ)

広報部のないテスラのメディア用フォトは貧弱だったが、最新のモデル3ではペットや家族の団欒の写真も提供するようになった(写真:テスラ)

販売好転の材料は乏しい

しかしながら、今年から来年にかけてテスラの販売が好転する材料は容易に見当たりません。近く部分改良されるというモデルYも、変更は外観含めて小規模にとどまるでしょうし、開発中の次期ロードスターも台数が見込めるモデルではありません。

NEVの「血の海(Blood Bath)」の様相を呈している中国市場では、中国メーカーの販売比率が今年中にも60%に到達しそうです。フォルクスワーゲンやGMは過去5年間で中国の販売が100万台ずつ減少しており、ロイター通信は先週、上海汽車がVWとGM両社との合弁会社で大規模な人員削減を計画していると報じました。BYDの王伝福会長は、3〜5年以内に外国ブランドのシェアは10%まで減少すると予告したようで、日本メーカーも戦線縮小を計っている状況です。EVのリーダーであるテスラも、BYDをはじめとする中国メーカーの攻勢の影響を免れるとは思えません。

一方、EVを躊躇する消費者がハイブリッドやPHEVを選択している米国では、EV専業メーカーとして実績があるテスラを利するということも考えられます。EPAのCO2削減目標も緩和されてGM、フォードなどの既存メーカーが無理をしてEVをプッシュしなければ、それがテスラにとって有利に働き、EV市場のシェアはしばらく現状を維持できるというシナリオです。

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