3月20日、米国環境保護局(EPA)は昨年4月に公表した2032年までの自動車のGHG(※1)排出基準(案)を緩和して最終決定しました。提案に対して寄せられたパブリックコメントや調査機関の市場分析、自動車メーカーや販売店協会、全米自動車労働組合(UAW)のヒアリングを参考に、急激すぎると批判されたEVシフトを修正しつつ、2026年比で約50%のCO2排出量削減を図る大胆な政策であることは変わりません。また、EPA発表の翌日に行われた独BMWの年次記者会見では、ツィプセCEOが2025年から2021年比で−25%厳しくなるEUのCO2排出基準値(乗用車で93g/km)は見直しが必要という見方を示しました。欧州の昨年のEV販売シェア(15%)は米国(8%)より高く、気候変動対策への理解も進んでいますが、それでもドイツのEV購入補助金の打ち切りなど逆風が吹いています。EVシフトにブレーキがかかった現状で、欧米の政府がCO2排出規制をどう対応させていくかが注目されます。※1:GHG=Green House Gas. CO2やメタンなどの温室効果ガスの総称。(タイトル写真は、2021年11月にGMのEV専用工場「ファクトリーゼロ」の開所式に出席したバイデン大統領。提供:GM)

2023年のEV比率を56%に下方修正、プラグインHEVなどを加味

EPAのライトビークル(※2)の最終的なGHG排出基準値は、前回の2032年の新車販売に占めるEV比率が67%に達する案と比較するとEV比率が56%に下がり、前回は考慮されていなかったプラグインHEVが13%、日本メーカーが得意とするHEVやハイテクなエンジン車の比率をそれぞれ3%、20%想定するなど、多様な技術でCO2削減を達成するシナリオに変わりました。※2:総車両重量8500ポンド(3855kg)以下の自動車

一年前は、自動車メーカーのEVやバッテリー製造への巨額の投資を背景にEVシフトが直線的に進むと見ていましたが、今回のシナリオでは、2027〜2030年までのEV化のペースを緩和しています。また、消費者のEV受容度やメーカーのEV生産台数などに応じてEVの普及度(penetration)を弾力的に想定しており、2032年のEV比率も35%から60%超まで幅を持って検討しています。

画像: EPAが「中心的ケース」と呼ぶシナリオのEV比率。当初案に比べ2030年までのEV化ペースを緩めPHEVも重視した(2032年に13%)。

EPAが「中心的ケース」と呼ぶシナリオのEV比率。当初案に比べ2030年までのEV化ペースを緩めPHEVも重視した(2032年に13%)。

それでも2032年におけるGHGの排出基準値は、乗用車とトラックを合算して85g/マイル(53g/km)と当初の数値から3g/マイル増えただけで、EPAによれば、2055年までに米国の1年間の総排出量に当たる700億トンのCO2の削減を可能にし、200億バレルの石油の消費量を削減できます。さらに、経済効果としても年間の燃料費を460億ドル、車両のメンテナンスや修理費を160億ドル削減します。800ページを超える政策文書では、メーカーの技術的コストや雇用への影響なども分析されており、2032年式モデルで製造メーカーのコストは一台につき1200ドル上昇するものの、購入したオーナーの保有コストは6000ドル下がり、自動車産業の雇用も10万人以上増えると試算しています。

画像: GMは今年1月、プラグインHEVを再導入すると発表した(写真は2011〜2019年に販売されシボレー・ボルトPHEV。EV走行距離が53マイルと長く好評だった)

GMは今年1月、プラグインHEVを再導入すると発表した(写真は2011〜2019年に販売されシボレー・ボルトPHEV。EV走行距離が53マイルと長く好評だった)

EV強制でなく、テクノロジーニュートラルを強調

トランプ前大統領や共和党のタカ派議員など反対勢力が、「EVシフトは米国経済を殺す」「EVの強制」と攻撃しているのを意識してか、今回のルールは「多様な技術を想定しテクノロジーニュートラル」で、メーカーも顧客も「EV、PHEV、ハイブリッドからハイテクエンジン車まで幅広い選択肢がある」ことを強調しています。

当初案に強く反対していた自動車メーカーや主要サプライヤーで構成する米国自動車イノベーション協会(Alliance for Automotive Innovation)も今回の修正案を歓迎し、「依然としてストレッチ目標だが市場とサプライチェーンに時間的猶予を与えた」というコメントがEPAのプレスリリースにも掲載されています。また、バイデン大統領を11月の選挙で支持することを表明したUAWも、「エンジン車の生産に携わる労働者への配慮を示した」と今回の修正を評価しています。

画像: 全米で昨年43万台を販売したSUV No.1のトヨタRAV4。HEVの販売が急増しており今回のEPAの修正は日本メーカーにも追い風になりそうだ(写真:トヨタUSA)

全米で昨年43万台を販売したSUV No.1のトヨタRAV4。HEVの販売が急増しており今回のEPAの修正は日本メーカーにも追い風になりそうだ(写真:トヨタUSA)

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