ディーラー協会は懐疑的、共和党議員は環境保護派への迎合と批判
依然として反対しているのは、全米自動車販売店協会(NADA)や共和党議員、石油関連団体などで、NADAは、市場のEV受容ペースを考えると今回のシナリオでも「大いに懐疑的」としたほか、ネブラスカ州の共和党上院議員デブラ・フィッシャーは、今回の修正は「EVのコストや信頼性の問題など『クリーン技術』の汚れた真実を浮き彫りにした。(中略)E15(※3)などの普及を図る方が現実的な環境政策」というコメントを出しました。しかし、E15でCO2排出の大幅な削減ができるとは思えませんから、ここまで来ると温暖化対策やグリーン政策が党派間の政争の具と化している現実を見せられている気がします。※3:エタノールを15%混合したガソリン燃料。
昨年のある調査によると、共和党員の70%は次のクルマにEVを検討しないと言い、逆に民主党員の56%は次のクルマにEVを検討すると回答したそうです。これを見ても、バイデン政権の法律は「EVの強制」「エンジン車禁止」という反対派の喧伝が広く流布しているようです。
緩和されたとはいえ、2032年にライトビークルのGHG排出量を85g/マイル(53g/km)に削減は決して容易ではありません。2027年のEV比率の想定は26%(乗用車35%、トラック23%)であり、あと4年でそこまで達するのは難しいという感触を販売ディーラーが持っても不思議ではありません。また、EUの2030年のCO2排出規制値(49g/km)と比べても、米国の排ガス試験走行サイクルの方がEUのサイクル(WLTP)より負荷が高いことを考えると、自動車メーカーにとってもかなり厳しい数値です。
今後は、米国道路交通安全局(NHTSA)が、昨年7月に発表した2032年に58マイル/ガロン(=24.5km/L)の企業平均燃費(CAFE)案を変更するかどうか。また、カリフォルニア州のクリーンカー法(ACC II)が定めるゼロエミッション(ZEV)規制(※4)(ニューヨーク州など16州が採用)との法律上の整合がどうなるかなどが懸案として浮上する可能性があります。※4:2027年に43%、2030年に68%、2035年に100%のZEVを義務付けている。
欧州でもCO2排出規制値の見直しの声
EPAの発表翌日の3月21日に、ドイツのBMWが年次記者会見を行いましたが、ここでの質疑応答でもEUのCO2排出規制値が最大の関心事でした。修正が必要と考えるかと聞かれたツィプセCEOは、①充電インフラの整備、②顧客の行動、③技術進歩のペースの3つの要素をあげ、これらを吟味して「実際的な(プラグマティック)」基準が必要だと述べました。
同CEOは、以前よりエンジン車の禁止時期を定めることに懐疑的でしたが、今回も顧客の選択を制限する規制は「誤り」であり、EUで予定されている2026年のレビューがポイントになるという見方を示しました。VWグループのオリバー・ブルーメCEOも、「充電インフラなどのEVの販売環境が整わない中で、CO2排出値の未達成で多額の罰金を受けることがないような調整が必要」と述べています。