搭載第一号はやはりあのスーパースポーツか?
では、2027年度内に発売される最初の全固体電池搭載車は何だろうか。今回の会見では具体的な車種には言及されなかったものの、質疑応答での記者とのやり取りからその姿は垣間見えた。トヨタの佐藤社長の関連する回答コメントは以下のとおり。
「(全固体電池は)液系電池の次に来るものとして位置づけている。充電時間の短縮、長い航続距離、高出力など、そのメリットを世に問いたい。まずは基盤作りを優先する。量産化はその次の段階として2030年以降を考えている」
「量産は相応のボリュームがないと難しい。第一段階はまず2027年度に世に出すこと」
「全固体電池はパラダイムシフトであり、EVの性能を大いに高めることができる。デザイン、キャビンパッケージ、まずはカッコ良くて走りの良いクルマ……」
そこから窺われるのは、2027年度に登場するのは市販車ではあるものの生産台数は極めて少なく、かつ非常に高価であるということだ。一方で、全固体電池の素晴らしさをアピールする、誰にでもわかりやすいクルマであることも必要だ。
そんな条件を満たすのは、やはりスーパースポースポーツカーをおいて他はない。2021年12月にトヨタが開催した「バッテリー戦略に関する説明会」で世界初公開されたコンセプトカー「レクサス エレクトリファイドスポーツ( Lexus Electrified Sport)」のようなクルマである。これなら、あのレクサスLFA(当時の新車価格は3750万円)を超える価格がつけられても、だれも文句は言えないだろう。
さらに、トラックやバスなど大型車両に搭載する可能性について問われると、「エネルギー密度の高さ、充電時間の短縮など、トラックやバスへの展開も検討はしている。最終的には、(現在各国で進んでいる)FCEVとの使い分けが必要になる。エネルギーセキュリティとの兼ね合いもあることから、国や地域との適合性を考えて提供することになるのではないだろうか」
トヨタは、より高出力で航続距離の長い全固体電池の開発も視野に入れていることを表明済みだ。全固体電池の普及がある程度進む2030年以降をターゲットに開発を進めているのだろう。
液系電池もさらに進化して普及価格帯EVの開発も進む
前段でも触れたように、トヨタの基本戦略はマルチパスウェイだ。EVの開発はその中の重要な選択肢のひとつという位置づけであり、国や地域のニーズ/法令に基づいてハイブリッドを始め適切なパワートレーンをこれからも提供していくことを掲げている。ごく近い将来に欧米や中国ではEVが主流となり、日本、そして最近は中国勢が攻勢をかけているアジア諸国もEV普及が加速することも間違いない。
そこで重要になるのが、従来と同じ液体の電解質液を使った「液系電池」の進化だ。会見に同席したトヨタCN先行開発センター長の海田啓司センター長は「(全固体電池はもちろんだが)液系電池の価格もまだまだ高い。もっと改良して性能を向上して価格も下げていく」とコメント。
さらに「全固体電池は2030年以降に量産効果が出て、液系電池と変わらない生産コストの実現を目指している」と2030年以降、しばらくは液系電池と全固体電池が混在すると予想している。
そんなトヨタが掲げる電池技術のロードマップは以下のとおり。トヨタ独自のバイポーラ構造に加え、三元系とより安価なLFP系を使い分けてあらゆる価格帯へのEVラインナップ拡充を目論む。
技術力でリードする日本勢、追う海外勢の動向に注目
全固体電池の量産実現に向けて一気に進んだ感のある今回の会見。とは言え、全固体電池をめぐる技術開発競争は予断を許さない。
この分野で圧倒的に先行しているのは日本勢だが、直近では中国勢による関連特許の出願件数が急ピッチで伸びている。なかでも素材関係での特許申請が目立っており、トヨタ/出光が採用する硫化物固体電解質とは異なる新素材の開発が進んでいる可能性がある。米国や欧州でも、独自の技術開発が進んでいるようだ。
果たして、近未来のデファクトスタンダードはどうなるのだろう。このままトヨタ/出光が独走を続けるのか、それともライバルの巻き返しがあるのか。新たな量産型全固体電池の発表が相次ぐ可能性も否定できない。自動車産業とエネルギー産業はまさに変革の渦中にある。