EV車が純正装着しているタイヤは、ふつうのガソリン車が履いているタイヤとはかなり異なる。一見しただけでは両者の違いはわからないが、エンジンではなくモーターやバッテリーを積んでいることから、タイヤに求められる性能もこれまでとは違ってくるのだ。(タイトル写真は日産のフラッグシップEV、「アリア」)

静粛性が高いEVの良さを活かすには?

EVならではの美点として、走行中の静粛性が高いことが挙げられる。言い換えれば、走行中にタイヤと路面が接することによって発生するノイズや風切り音が、EVでは非常に目立ちやすいということでもある。ガソリン車ではエンジン音や排気音でかき消されているノイズが、EVではとりわけ目立ってしまうのだ。そこで、騒音の低減を目指して、タイヤメーカーは可能な限り騒音の発生を抑えるべく、材料や構造、トレッドパターンに工夫を凝らしている。

画像: 横浜ゴムは新製品「アドバン スポーツ EV」に専用設計のポリウレタンフォーム「サイレントフォーム(ブルーの着色面)」を貼り付けてノイズの抑制を図っている。

横浜ゴムは新製品「アドバン スポーツ EV」に専用設計のポリウレタンフォーム「サイレントフォーム(ブルーの着色面)」を貼り付けてノイズの抑制を図っている。

モーターならではのトルク特性がタイヤを痛めつける

そして、EVは停止状態からすぐに最大トルクを発生するというモーター駆動ならではの特性をもっている。エンジン車ならばタイヤにかかる負担はエンジン回転数の上昇と比例しているが、EVでは停止状態からいきなり最大の負荷がかかる。エンジン車とは真逆の特性により、タイヤは酷な状況にさらされるわけだ。それに耐えられる摩耗性能を確保しなければならない。

画像: EVの駆動用モーターは発進時から最大トルクを発生するのでタイヤにはそれに耐えうる耐摩耗性能が求められる。(写真はレクサスRZ欧州仕様)

EVの駆動用モーターは発進時から最大トルクを発生するのでタイヤにはそれに耐えうる耐摩耗性能が求められる。(写真はレクサスRZ欧州仕様)

電費向上のカギを握る転がり抵抗

最後にもっとも大事なのが「転がり抵抗」である。走行中のタイヤは、常に地面との摩擦が生じてロスが発生している。このエネルギー損失をころがり抵抗と呼ぶ。ガソリン車にくらべてEVの場合はより影響が大きいので、航続距離に効いてくるのだ。ただし、転がり抵抗を低減すればするほど、実はタイヤのグリップ力や排水性能に影響が出る。また、タイヤの変形を抑える方向にあるので、路面からの衝撃吸収性能は車両のサスペンションセッティングとセットで考える必要がある。その点では、上述の重量対策と同様のアプローチも必要になっている。

画像: 走行中の転がり抵抗を抑えることはガソリンエンジン車でも重要だが、EVではその影響がとくに大きい。(写真はトヨタbZ4X)

走行中の転がり抵抗を抑えることはガソリンエンジン車でも重要だが、EVではその影響がとくに大きい。(写真はトヨタbZ4X)

ここまでの話をまとめると、EV専用タイヤには、従来のタイヤ、たとえばスポーツカー用の強靭な構造やグリップ性能、上級サルーン用の静粛性や乗り心地、さらに燃費重視のエコタイヤに求められていた性能をすべて兼ね備えていることが求められる。どれも同じに見えるタイヤだが、その中身はとんでもないテクノロジーが込められている。

結果的に、標準的な構造のタイヤと比べてEV専用タイヤは割高になってしまうのは致し方ないところではあるが、仮に同サイズの標準タイヤを装着すると、摩耗の速さに驚くはずだ。

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