日本のマーケットで大きな存在感を持つ軽自動車に大きな変化が起きている。日産/三菱が投入したEVが成功を収め、今後、普及が進むことが確実視されているのだ。これをライバルメーカーも黙って見ているわけにはいかない。各社の動向を探った。

日産/三菱は軽EV市場の開拓に成功

「日本国内の独自規格である軽自動車でEVを作って果たしてビジネスになるのか?」日産サクラ、三菱eKクロスEVが登場したとき、多くの人はそう考えたに違いない。

フタを開けてみれば、2022年度の国内EV販売台数7万7238台のうち、日産サクラが3万3098台、eKクロスEVが7657台のヒットに。この2台で国内EV販売の52%を占めたのだから大成功と言えるだろう。

補助金込みなら200万円を切るという絶妙な車両価格設定が奏功したこともあるが、EVへの関心が予想以上に高いことも認識させられたこの2台。軽自動車の価格は100万円台前半から半ばが中心。軽自動車に200万円近く払うマーケットは、すでにこの2車があらかた刈り取ってしまったという見方もある。

しかし、決算期が終了した2023年4月単月をみても、サクラは2370台(前月2888台)、eKクロスEVはやや苦戦しているがそれでも533台(前月1544台)が販売されたという事実に、この市場はまだまだ伸びていきそうな気配だ。

ライバルメーカーも黙っていない

そこで気になるのが、軽自動車をラインナップするライバルメーカーの動向。ホンダ、スズキ、ダイハツ、3社とも軽EV市場に参入することは表明しているが、そのアプローチは日産/三菱とは異なる。まずは商用軽EVから参入、追って乗用軽EVを追加するという戦術だ。

実は商用車保有台数の6割近く(約58%:2022年3月末時点)が軽自動車である。物流の大動脈はトラックで、配送センターに到着後のいわゆる「ラストワンマイル配送」は軽自動車が担うというのが物流業界の仕組みだ。

ちなみに商用軽EVといえば2011年4月に発売された三菱ミニキャブミーブが嚆矢。先を行き過ぎていたのか、2021年3月にいったん生産を終了したものの、直後に始まった商用軽EVニーズの急速な高まりに応え、2022年10月から再販され現在に至っている。なので、まずは環境負荷低減を目指す物流業界の期待に応えることから始めるアプローチは、けっこう手堅い。そんな3社の動向は以下のとおりだ。

●ホンダの動向

車両価格を100万円台に抑えたN-VANベース商用EVを2024年春に発売。一充電あたりの航続距離200kmを目標としており、商用利用だけでなく買い物や通勤、さらに趣味活用など日常用途にも対応する。2023年6月より同年8月まで、ヤマト運輸と共同で実証実験を開始(同年8月まで)し、小型モバイル冷蔵庫を搭載して、冷蔵・冷凍品の配送への対応も検証する予定だ。さらに乗用軽EVについては、2025年に「N-ONE」をベースにした新型軽EVを発売するべく準備を進めている。

画像: 「ホンダN-VANベースの軽商用EVプロトタイプ」。2024年春に発売予定だ。

「ホンダN-VANベースの軽商用EVプロトタイプ」。2024年春に発売予定だ。

トヨタ、スズキ、ダイハツ、CJPT(コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ)の4社による合同の実証実験を東京都内で実施中。この実験で使われているのが、スズキ、ダイハツの小さなクルマづくりのノウハウと、トヨタの電動化技術を融合した3社共同開発による軽EVだ。

その実車が「G7広島サミット」に際して開催された自工会の展示イベント(5月18日〜21日)で公開され、2023年度内にスズキ(エブリィ)、ダイハツ(ハイゼット カーゴ:イベント展示車両)、トヨタ(ピクシスバン)として発売されることがアナウンスされた。車両生産はダイハツが担当し、一充電当たりの航続距離は200km程度が見込まれている。

●スズキの動向

上述のとおり、3社共同開発による商用軽EVを「エブリィ」シリーズの追加ラインナップとして2023年度内(2024年春?)に発売。また乗用軽EVの開発も着々と進めており、2030年度までには発売されるようだ(上述の商用軽に加え、乗用軽、小型SUVを含め日本ではEV6モデルを投入することが明らかにされている)。

画像: スズキは6車種のEVを投入することを明らかにしている。

スズキは6車種のEVを投入することを明らかにしている。

●ダイハツの動向

イベントで公開した軽商用EVを「e-ハイゼットカーゴ」(「e-アトレー」も?)としてスズキと同じく2023年度内に発売。トヨタにもOEM供給され「ピクシスバン」として発売される。さらに2025年前後には、自社開発の乗用軽EVを発売する。ロッキーに搭載したシリーズハイブリッド(「e:smart」)をベースにしたEVシステムを搭載し、補助金込みで100万円台をめざすという。

画像: ダイハツからは「e-アトレー」が登場すると思われる。

ダイハツからは「e-アトレー」が登場すると思われる。

乗用軽EVの日産サクラ、三菱eKクロスEVに加え、2023年度内(2024年春?)にはライバル社から商用軽EVが3車登場することで、国内軽自動車メーカーの軽EVがほぼ出揃う。

さらに2025年にはホンダ、ダイハツから乗用軽EVが登場し、補助金込み100万台に収まるEVがしのぎを削ることになりそうだ。これに2023年8月から国内発売が始まるBYDの低価格コンパクトEV「ドルフィン」なども絡んで、EVはだれでも購入を検討する身近な存在になることは間違いない。まさに機は熟しつつあるのだ。

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