コロナ禍で前回2021年の上海モーターショーは規模を縮小、昨年の北京モーターショーは中止されたこともあり、今年3年ぶりに本格的な中国でのモーターショーとなったのが上海ショーでした。ここでは自動車産業の主役の交代を告げるような活況ぶりを見ていきます。(タイトル写真はBYDの最高級ブランド「仰望(ヤンワン)U8」)

主役はやはり中国メーカー

日本の自動車関係者やメディアが、躍進の著しい中国自動車産業をその目で見ようと、一年ごとに上海、北京と交互に開催されるモーターショーに大挙して訪れていたのは、北京五輪(2008年)や上海万博(2010年)が開催された時期の前後10年くらいでしょうか。筆者も何度か足を運びましたが、最後に上海ショーに行ったのは2013年、もう10年も昔になります。

EVが世界の自動車産業の構造を根底から組み替えつつある今、3年に及んだコロナ閉塞の後に、紛れもない主役として立ち現れたのが中国の自動車産業だということを示したのが今回の上海ショーでした。

昨年の中国の新エネルギー車(NEV)※の総販売台数は688万台で、その内EVは前年比82%増の536万台。2035年までに脱内燃機関に邁進する欧州(EU)と米国の販売が、それぞれ153万台と80万台なので、中国の世界のEV販売に占めるシェアは7割近くという圧倒的な存在です。
※EV+PHEV(プラグインハイブリッド車)+FCV(燃料電池車)

EVの中枢部品であるバッテリーの生産においても、それをリードするのは生産シェアが40%に迫るCATLや昨年韓国LGを抜いて2位となったBYD、国軒高科などの中国企業で、その最先端の技術とコスト競争力を求めて、欧米や日本の自動車メーカーが競って調達に走っています。

画像: フォルクスワーゲンが26%出資した国軒がドイツに建設中の電池生産工場。

フォルクスワーゲンが26%出資した国軒がドイツに建設中の電池生産工場。

国軒は、同社に26%出資したフォルクスワーゲン(VW)と協力してVWのパワートレイン生産の一大拠点であるドイツ ザルツギッターに電池生産工場を建設中ですし、CATLは欧州で2カ所目の生産工場の建設を発表。アメリカでも、フォードが同社と協力してミシガン州で電池生産に乗り出すなど、その勢いはつい最近まで電池業界をリードしていたLGエナジーソリューションなどの韓国メーカーや日本のパナソニックを凌駕しつつあります。

BYDがEVの躍進を牽引

上海ショーでも、中国のEVメーカーの躍進が際立ちました。元々電池メーカーとして創業し、20年前に自動車生産に乗り出した比亜迪(BYD)は、2022年には内燃機関車の生産をやめてEVとPHEVに専業化し、昨年は186万台を販売して中国の新エネ車のトップメーカーとなりました。今年は300万台近く販売するとの予想もあり、テスラを抜いて世界ナンバーワンのEVメーカーになるかもしれません。

BYDは、「漢(Han)」や「宋(Song)」などの「王朝」シリーズや、「海豚(Dolphine)」「海豹(Seal)」などの「海洋」シリーズなど幅広く展開しています。BYDジャパンが今年1月日本で発売した「Atto3」は中国名は「宋プラス」で、昨年の中国の新エネ車販売No.1のモデルです。

画像: BYDが発表した「宋L(Song L)」。洗練されたSUVスタイルが特徴的だ。

BYDが発表した「宋L(Song L)」。洗練されたSUVスタイルが特徴的だ。

日本でも披露された「海豹(Seal)」も、今回上海で発表された「宋L(Song L)」もデザインが垢抜けていると感じましたが、それもそのはず、同社のデザイン責任者は、元アウディのチーフデザイナーのヴォルフガング・エッガーであり、2016年からBYDで指揮をとっているのです。

BYDは、最高級ブランドの「仰望(ヤンワン)」では、109万8000元(約2000万円)のSUV「U8」やEVスーパースポーツ「U9」をお披露目する一方、7万7800元(約150万円)のスモールEV「海鴎(Seagull)」も発表しました。「海鴎」は全長3780mm、全幅1715mm、全高1540mmで、フォルクスワーゲンが10年前に導入した最初のEV「e-up!」(全長3610mm、全幅1650mm、全高1495mm)を一回り大きくしたくらいのサイズです。搭載する30kWhのバッテリーは三元系金属(ニッケル、コバルト、マンガン)を使わない最先端を行くナトリウム電池を採用予定と言われており、欧州走行モード(WLTP)で305kmの航続距離を持ちます(38kWh仕様は三元系リチウムイオン電池で405km)。BYDのエントリーEVとして人気の「海豚」の11万6800元(約220万円)より3割以上安く、大いに注目を集めました(4月26日に「海鴎」の価格は5000元安い7万3800元からと正式発表された)。

画像: BYDのエントリーモデルとなるスモールEVの「海鴎(Seagull)」。

BYDのエントリーモデルとなるスモールEVの「海鴎(Seagull)」。

BYDのブランド展開は現在、低中価格帯の「BYD」、高価格帯の「騰勢(デンツァ)」、超高級車の「仰望」の3つですが、今回これに加えて4つ目のブランドを導入すると表明したようです。拡大するEVラインアップを個別のブランドで切り分けるのは、フォルクスワーゲングループが、VWやシュコダ、若者向けエントリーブランドJETTAから、アウディ、ポルシェ、ランボルギーニなどの11のブランドを擁するブランド戦略を参考にしているのかもしれません。

EVとITテックが融合した提案は米国のCESに類似

この他、新興EV御三家で中国のテスラと言われたNIO(蔚来)も同社一番人気のミッドサイズSUV「ES6」の新型モデルを発表。小鵬(Xpeng)はG6、理想(LiAuto)はL7(PHEV)を、ボルボの株主である吉利(Geely)は、EVブランド「Zeekr(ジーカー)」の3車種目で欧州輸出も計画されるコンパクトSUVの「Zeekr X」(18.98万元:約370万円から)を発表しました。米ウオール・ストリート・ジャーナルによれば、今回の100以上の出展社から、今年だけで150車種以上のEVやPHEVが導入される予定とのこと。

画像: ボルボの株主であるGeelyが2021年に設立したEV専用ブランド、“Zeekr”は3種目となるSUVの「Zeekr X」(写真左)などをお披露目した。

ボルボの株主であるGeelyが2021年に設立したEV専用ブランド、“Zeekr”は3種目となるSUVの「Zeekr X」(写真左)などをお披露目した。

中国メーカー車の特徴は、最新のインフォテイメント機能を備えることです。大型のタッチパネルが2連、3連と並び、ゲームやカラオケ用の高級オーディオやジェスチャーコントロールを備え、水晶玉やAIアシスタントロボットをダッシュボード上に搭載したモデルなどエンターテイメント性に溢れています。

画像: 中国のEVはエンターテインメントが充実している。こちらは「理想 L9」。

中国のEVはエンターテインメントが充実している。こちらは「理想 L9」。

顔認証や音声コマンドなど、ITとクルマが一体化したハイテク感が、中国の若い購買層には受けが良いようです。自動運転に力を入れる百度(バイドゥ)や華為技術(ファーウェイ)、生成AIや半導体メーカーも出展するなど、ショーの雰囲気はモーターショーというよりラスベガスのCESに近いのかもしれません。

●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。

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