2025年2月18日、ルノーは、EV/PHEVに搭載される大容量リチウムイオンバッテリーに起因する車両火災の消火活動をわずか数分で完了する技術「Fireman Access(ファイアマン・アクセス)」の特許を公開し、ほかの自動車メーカーやサプライヤーに無償で提供すると発表した。車両火災そのものを抑制するわけではないが、鎮火が難しいと言われるEV/PHEVの消火活動を内燃機関車とほぼ同等の時間と水量で達成できるという。

なぜEVやPHEVの車両火災は、消火が難しいと言われるのか

車両の火災は意外に多い。誤解されていることもあるが、これは内燃機関車、大容量リチウムイオンバッテリーを搭載しているEV/PHEVを問わず、すべての自動車の潜在的なリスクとしてある。

内燃機関車による車両火災では、事故による衝撃やメインテナンスの不備(電装関係のトラブルを含む)が原因で燃料ラインなどに損傷が発生し、そこから漏れた燃料や油脂類が高温になった排気パイプなどに触れることで火災が発生する。

画像: 車両火災が発生する原因は、事故やメインテナンス不良などさまざま。写真はイメージ。

車両火災が発生する原因は、事故やメインテナンス不良などさまざま。写真はイメージ。

その点、燃料やエンジンオイルなどを必要としないEV/PHEVは一般的には車両火災のリスクは低い。にもかかわらず、リチウムイオンバッテリーのいわゆる熱暴走が原因とみられる発火事例が少なからず発生している。

自動車メーカーやバッテリーメーカーは、BMS(バッテリーマネジメントシステム)を搭載して厳重に監視しているので、火災の原因となる熱暴走はそう簡単には起こらない。それでも、いったん熱暴走が始まって発火すると、完全に鎮火することはかなり難しいと言われている。バッテリーセルの内部で酸素と水素を含む生物に有害な可燃性ガスが生成され、いわば燃料が絶え間なく供給される状態になるからだ。

しかも、バッテリーセルは厳重にシールされたケース(パック)に守られているので、外部から効果的に冷却することができない。それゆえ、内燃機機関の消火作業とは比べものにならない量の水と時間が必要になる。

2024年夏には韓国の大規模集合住宅にある地下駐車場で、停車中のEVから火災が発生して、周囲のクルマに延焼して大きな被害が出た。日本でも報道されたので、知っているひとも多いだろう。

熱暴走が発生する原因はさまざまだ。衝突事故や下まわりを強打するなどの衝撃が加わったとき、また自然災害で塩分濃度の高い海水や汽水に長時間さらされたとき(塩水は導電性が高いため電気分解を促進する)、周囲の火災などによって異常な高温にさらされたなどが原因のひとつとなる。ほかにもBMSの故障などで過充電が繰り返し起きた場合や、そもそもバッテリー本体に問題があったなど、さまざまな事例が報告されている。

ともあれ、火災のリスクが比較的低いと思われるEV/PHEVではあるが、いったんバッテリーから発火すると鎮火には大変な困難が伴う。それゆえ、消火方法はまさに現在進行形で研究・開発されているのだ。

火災発生の抑止ではなく、短時間で安全に消火する方法

そこでルノーがフランスの消防当局と共同で開発したのが、「Fireman Access(ファイアマン・アクセス)」というバッテリーの冷却・消火を促す技術である。

画像: フロアに空いた注水用アクセス口。中に見えるのがバッテリーパックのケースに接着されたディスク。火災発生時にはここから高圧消火ホースでディスクを剥がし、バッテリーパックの内部に直接注水して冷却・消火する。

フロアに空いた注水用アクセス口。中に見えるのがバッテリーパックのケースに接着されたディスク。火災発生時にはここから高圧消火ホースでディスクを剥がし、バッテリーパックの内部に直接注水して冷却・消火する。

その仕組みは、なぜ今までなかったのかと思わせるほどシンプル。バッテリーパックのケース上部に注水口を開け、平時はそこにディスク状のプレートが接着されて密閉されている。火災発生時には、このディスクを消火ホースの水圧で剥がして、バッテリー内部に直接注水する。水がコンパートメントに直接浸水してセルを冷却するとともに、化学反応の進行を抑止する仕組みだ。

消防隊員がこのディスク部に近づけることが前提になるが、熱暴走による火災の発生を抑えるのではなく、発生した火災による延焼を抑えるという発想の転換は、ルノーによれば「熱暴走を止める唯一の迅速かつ効果的な方法」だとしている。この技術の採用で、従来の消火活動に必要な水量を10分の1に抑え、数分で消火活動を終えることができる。併せて、有毒ガスの大気放出や消火用水による環境への影響も最小限にできそうだ。

画像: フロアに空いた注水用アクセス口から見える、延焼しているバッテリーパック内部の様子。ここから高圧消火ホースで、内部に直接注水して冷却・消火する。

フロアに空いた注水用アクセス口から見える、延焼しているバッテリーパック内部の様子。ここから高圧消火ホースで、内部に直接注水して冷却・消火する。

このシステムはすでに7つの特許を取得して、現在ルノーが生産するすべてのEV/PHEVに加え、ルノーグループのダチアやアルピーヌにも採用されている。今回の発表と同時に、7つの特許はほかの自動車メーカーやバッテリーメーカーなど自動車業界全体に開放された。使用するにあたっては、それによって得られた知見や技術は使用するメーカー間で共有することが条件になっている。

特許をオープンソース化した理由を、ルノーグループCEOのルカ・デ・メオ氏は以下のとおりコメントしている。

「ファイアマン・アクセスは、メーカーとしての専門知識と、日々私たちの安全を守っている消防隊員たちのスキルを組み合わせることでなにが達成できるかを実践的に示しています。今日、このイノベーションを自由に利用できることを嬉しく思います。なぜなら、安全性のようなテーマに関しては、すべての障壁を打ち破る必要があるからです」

画像: 「ファイアマン・アクセス」は、すでにルノーが生産しているEV/PHEV全車に採用済みだ。(写真は日本にも上陸予定のルノー5 E-Tech)。

「ファイアマン・アクセス」は、すでにルノーが生産しているEV/PHEV全車に採用済みだ。(写真は日本にも上陸予定のルノー5 E-Tech)。

EV/PHEVはまだまだ進化するモビリティであり、普及が加速するにつれてさまざまな問題も生じてくるだろう。火災の問題もしかり。現在は内燃機関車よりも消火が難しいと言われているが、ファイアマン・アクセスのような技術が業界内で共有され、さらに互いに完成度を高めていくのは自動車業界全体の進化の理想形でもある。障壁を取り払うと宣言したルノーの下した判断が、今後どのように活用されていくのか期待して待ちたい。

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