自走式ロープウェイで低コストの都市交通を実現
路面ではなく、高架化した構造物の上を移動するロープウェイと懸垂式モノレール。ロープウェイとひと言でいってもさまざまなタイプがあるものの、一般的にはロープに固定されたゴンドラをロープごと引っ張ることで移動するもの。比較的安価に敷設でき、また高低差をはじめとする地形の変化に柔軟に対応するが、構造上、分岐することはできず、また直線的に移動することが主流だ。一方で懸垂式モノレールは車両側に駆動力を持たせた自走式で、カーブや分岐にも対応するが、構造が複雑になり建設・維持費用も高い。
そこで、2018年に設立された慶應義塾大学発のスタートアップ企業ジップは、両者のメリットを活かした都市型モビリティ「ジッパー」を開発。直線区間は支柱の間をロープで渡し、曲線区間は金属のレール(パイプ)で建設、その上をゴンドラが自走するハイブリッド構造の「自走式ロープウェイ」となる。既存のロープウェイでは難しかったカーブや分岐を設定できるルート設計、運行密度を調整できるなど柔軟性の高い交通手段になる見込みだ。またモノレールよりもイニシャルコストとランニングコスト、いずれの面で優れている。
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カーブではロープと同じ直径のパイプを用いることで、曲線区間を設定可能なロープウェイを実現している。
具体的には、既存のモノレールに比べて建設コストは約1/5の15億円/km、建設期間は1年というスピード感を実現するほか、2本のロープを用いることで通常のロープウェイの1.5倍の風速(30m/s)まで運行できるなど、従来のロープウェイのネガポイントを解消し、コストを抑えたモノレールのようなメリットを生み出せるのだという。
国内外で高く注目されている
今回、ジップとの連携協定を締結した九州電力は、「九電グループ経営ビジョン2030」で掲げた戦略の柱の1つである「持続可能なコミュニティの共創」を実現するため、2020年7月に都市開発事業本部を立ち上げ、九州を中心に国内外でさまざまな都市開発事業に取り組んでいる。
ジップとの連携はその一環として行われ、導入適地の探索、普及、そして技術的な研究、また九州地域の交通渋滞や移動手段の不足、脱炭素化などといった交通社会に存在する課題解決のための取組みにおいて協力がなされるという。
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「ジッパー」導入により渋滞を回避可能な都市部の交通システムが実現するかもしれない。
ちなみにジップは、神奈川県や同県の秦野市、相模原市とも連携協定を締結しているほか、沖縄県豊見城市や北海道石狩市では導入に向けた調査を実施、さらに海外でもフィリピン基地転換開発公社と連携の基本合意書を締結するなど、日本や世界の各地域から注目されている交通システムと言えるだろう。
ロープウェイとモノレールのいいとこ取りが可能な「ジッパー」は、都市部の上空空間を活用した渋滞回避できる次世代型交通手段として確立されていくのか、今後の展開に期待が高まる。