リチウムイオンバッテリーの価格下落が電動モビリティ普及を後押しする
EVなど電動車の価格に大きな影響を与えるのがバッテリー価格の動向だ。これに関しては、2024年10月7日に米ゴールドマン・サックスが投資家向けに発表したレポートが興味深い。この報告書によれば、リチウムイオンバッテリーの価格下落が続いており、2026年にはEVの価格水準はガソリン車とほぼ同等になるという。バッテリー価格の下落が続くという点では、HEV/PHEVにも影響はあるだろう。
レポートによれば、現在のリチウムイオンバッテリー平均価格は1kWhあたり111ドル(約1万7000円)前後。2023年は149ドル(約2万3000円)/kWhだった。かつて2011年は780ドル(約12万円)/kWhもしたことを考えれば。このまま下落が続けば2026年には82ドル(約1万2600円)/kWhになり、まさに隔世の感がある。さらに10年後には64ドル(約9800円)/kWhまで下がると予想している。
このまま下落傾向が続くならば、2026年にはガソリン車とEVの製造コストはほぼ同等になり、2035年前後にはガソリン車よりも安くなるというのが本レポートの主張だ。それが実現するかは今後さらに増加するSDV関連の投資も考慮しなければならないが、少なくとも現在の値付けより割安感がでるのは間違いないだろう。
また2020年代後半には全固体電池の搭載も始まる。こちらは実用化から間もないため当初は量産できずに高コストとなり、リチウムイオンバッテリーの平均価格を一時的に押し上げる可能性もある。ただし、その開発に携わる自動車メーカー/バッテリーメーカーは、いずれも2030年以降には量産化されて普及が加速=価格の下落を予想しており、現在のいわゆる液系バッテリーから徐々に置き代わっていくと考えている。
さらに、現在は中韓メーカーが事実上独占している比較的安価なLFP(リン酸鉄)リチウムイオンバッテリーも、2020年代後半には日本をはじめ世界各国で量産が開始される。これがリチウムイオンバッテリー全体の平均価格をさらに押し下げる。結果的に、EVはもちろん現在人気のHEVやPHEVの価格を下げることにつながるかもしれない。
その影響はあらゆるモビリティにも波及する。身近なところでは電動アシスト自転車や電動バイク、さらには「空飛ぶクルマ(eVTOL)」など、電気を動力源とするあらゆるモビリティの価格抑制につながるだろう。
多くのドライバーがEVの購入をためらう最大の理由として「割高感」を挙げる。しかし、あと数年たてばそれは解消され、残るのは各国の電力や住宅事情も含めた充電インフラ次第ということになるかもしれない。ともあれ、電気を使う「移動」が特別な体験ではなくなる日は、想像以上に早いのかもしれない。