2025年半ばには早くも3台の量産モデルが登場する
中国市場で苦戦しているのは日本メーカーだけではない。欧州の伝統的なブランドも中国市場での販売台数激減、さらに市場特有の値引き合戦にも巻き込まれている。各社ともさまざまな方策を練っている最中だが、欧州勢のなかでいち早く手を打ったのがアウディだった。
すでに2024年5月20日には、かねてより関係の深かった中国大手の上海汽車(SAIC)と、中国市場向けのEVプラットフォーム基盤「Advanced Digitized Platform」の共同開発を発表し、2025年からプレミアムレンジに3モデルを投入する計画を明かしている。SAIC傘下のソフトウエア開発企業「零束科技(Z-ONE Technology)」も参加して、最新のスマート化技術が盛り込まれることもアナウンスされた。
このたび発表された新ブランドには、お馴染みのブランドシグネチャー=“フォーリングス”は付いていない。大文字アルファベットによる「AUDI」のブランドロゴに置き換えられている。これは姉妹ブランドであることを表現し、「AUDI」はあくまで中国に拠点を置き、中国ユーザー向けに仕立てられたブランドであることを意図しているという。
それにしても提携発表から、わずか半年で新ブランドを設立してコンセプトカーを発表、さらにその半年あまり先には実際に量産車を発売するというスピード感には恐れ入る。市場投入までの開発リードタイムを“30%以上短縮”したというから尋常ではない。
もちろん、かねて関係の深い両社ではあったので水面下では準備が進んでいたはずだが、ドイツ主導で進めていればこんな芸当は叶わなかったはずだ。正式なインフォメーションはないが、「Advanced Digitized Platform」は、SAICとアリババの合弁会社が設立したIMモーターズ(智己汽車)が採用するインテリジェントEVプラットフォームをベースに開発されたと考えられる。
両社が得意な技術を持ち寄って完成したプレミアムカー
AUDI Eコンセプトのデザインは、外観・内装ともに中国事務所での駐在経験が長いアウディチームが中心となってまとめられた。ターゲットカスタマーの嗜好にあわせ、ドイツ本国とは差別化されたエクステリアデザインが与えられている。インテリアもEVパッケージの利点を生かして広々とした空間を生み出し、4Kタッチディスプレイを全面採用したスマートコクピットによる優れた実用性と車内体験を提供する。
全長4870mm×全幅1990mm×全高1460mm、ホイールベースは2950mm。ちなみに上述のIMモーターズの最新セダン「L6」は、全長4931mm×全幅1960mm×全高1474mm、ホイールベースは2950mm。ボディサイズは若干異なるが、ホイールベースは同じだ。
フロントアクスルとリアアクスルに配置された2基のモーターは、合計で最高出力570kW/最大トルク800Nmを発揮し、アウディクワトロのシグネチャーである4輪駆動と相まって、0→100km/h加速は3.6秒という俊足。駆動用バッテリーの容量は100kWhで、航続距離は700km(CLTC)。800Vアーキテクチャの採用により、わずか10分の急速充電で370km以上の航続距離を回復する。このあたりのスペックも「L6」に近く、短期間でコンセプトモデルまでこぎ着けた秘密がありそうではある。
もっとも注目すべきはインテリジェント機能だろう。車内幅いっぱいに広がる4Kタッチディスプレイは、車両情報/インフォテイメント、デジタルミラーがシームレスに統合されており、直感的な操作が可能だ。中国市場に特化された最新の市街地ADAS(いわゆる自動運転レベル2++)はもちろんのこと、自動駐車、コネクティビティなど本格的な「SDV」としての基本要件はすべて搭載されている。
さらにOTA(オーバー・ジ・エア)による随時アップデートにより常に最新の状態が保たれる。そもそも中国のアウディは比較的若年層から支持されているが、「AUDI」はさらに若いデジタルネイティブ世代に向けて造りこまれるという。
2025年半ばに市販開始されるのは、このシューティングブレークをベースにしたC/Dセグメント車。さらにSUVとラージクラスセダンがその後に続くという。生産は上海にあるSAIC-フォルクスワーゲン安亭(アンチン)工場が担当する予定だ。
今後、中国でビジネスを展開するためのベンチマークに
実は中国市場への対応策として、すでにアウディに近いアプローチを模索しているメーカーも多い。その筆頭が日本のトヨタであり、すでに中国市場向けに車両開発の現地化に向けた準備を進めている。“日本人が作る中国車ではなく、中国人が中国で作る日本車”が数年後には登場する。
マツダもすでに長安汽車とのコラボレーションを進めており、先日は「MAZDA EZ-6」を発売、2025年には第2弾のSUVも投入予定だ。ほかにもフォルクスワーゲン、ステランティスほかメジャープレイヤーたちが開発の現地化に向けた準備を進めている。
いまや世界最大の自動車市場となった中国だが、ユーザーの嗜好は日本や欧米とかなり異なることも露呈してきた。デジタルネイティブ世代ほどその傾向は顕著で、動力性能や運転性能よりも、いかに車内を快適かつ便利に使えるか(=コネクティビティ)がクルマの最大の価値になっている。
そして、それを実現するのがIT関連技術であり、この分野では中国が先頭を走っている。単なる共同開発にとどまらず、あえて新ブランドを立ち上げたアウディはかつての優位性を取り戻すことができるのか。「AUDI」の動向は、世界中の自動車メーカーが固唾を飲んで見守ることになるだろう。