長距離走行では頻繁な充電が必要なPHEVの弱点を解消
昨今、PHEV(プラグインハイブリッド)が世界的に注目を集めており、充電インフラに不安がある国や地域を中心に販売台数が急増している。
PHEVは通勤など近距離の走行ではバッテリーから供給される電気で走り、蓄えた電気がなくなればエンジンの動力で走る。一般的にはEVより安価かつエンジン走行も含めた総航続距離も伸びるが、長距離を走るとすぐにバッテリーが“空”になってしまう。多くのPHEVが完全な電気走行ができるのは概ね50kmから70kmほどと控えめで、あとはエンジンが始動して走行と発電/充電にエネルギーが費やされることになる。
しかも空になったバッテリーの重量も負担することになるので、高効率的とは言い難い。結果的に、たびたび充電ステーションに立ち寄らなければならない(もしくは、通常のガソリン車として充電せずに走らせるか)。
つまり、近距離では優れたPHEVも、遠出をする際にはEVのようなスムーズな走行体験は得られない。この課題を解消するにはバッテリー容量を拡大するのが近道だが、それでは車両は重くなり価格も跳ね上がってしまい本末転倒ということになる。自動車メーカーはエンジンの小型化やバッテリーの改良を重ねているが、これといった決め手を欠いていた。
素材技術と制御技術の革新によってEV並みの航続距離
今回、CATLが発売した「フリーヴォイ」は、そんな課題を一挙に解決する画期的なバッテリーと言えるだろう。頻繁な充電を不要とし、さらに10分間の充電で280kmのEV航続距離を回復するという。つまり、エンジンの搭載有無を無視すれば、ほぼEVに匹敵する走行体験が得られるようになるわけだ。
CATLの中国電気自動車事業のCTOであるGao Huan氏は、発売イベントでその革新的な機能について詳細なプレゼンテーションを行った。
「カソード材料の表面改質技術と高電圧電解質配合技術の組み合わせによってリチウムイオンの輸送速度が大幅に向上。これにCATLが独自開発したSOCフルシーン高精度モデルと、BMSインテリジェントアルゴリズムとハードウェアのアップグレードにより、SOC制御精度は40%も向上し、全体の純粋な電気利用率は10%以上増加し、400km以上の純粋な電気航続距離を達成しました。同時に、CATLはバッテリーの充放電分極特性に関するモデルデータ分析を実施し、バッテリーの将来の放電容量を正確に予測し、バッテリーのマルチレベルの電力予測と制御戦略を作成し、ハイブリッド車の電力性能を20%向上させた」
かなり専門的だが、要は素材技術と充放電制御技術の革新によってSOC制御精度が40%向上し、全体の純粋な電気利用率は従来比で10%以上増加して400kmを超える純電気航続距離を実現できたということなのだろう。
さらにCATLは「フリーヴォイには、ナトリウムイオンバッテリー技術を実装しており、極寒環境下でのマイナス40度までの放電、マイナス30度までの充電能力を実現し、常温に匹敵するマイナス20度までのシームレスな走行体験を維持します」とアナウンスしている。
フリーヴォイは2025年から吉利(Geely)や奇瑞(Chery)、広州汽車(GAC)ほか30モデルのPHEVに搭載が始まる。世界的なシェアをもつCATLのバッテリーだけに、今後は中国ブランドに限らず各国で採用が増えるのは必至。PHEV、そして各社が開発を進めるEREV(Extended Range Electric Vehicle)も含め、その搭載は劇的に増加していきそうだ。